台湾での市場調査で失敗しないためのポイント、中小企業の成功事例を交えて解説
台湾での市場調査で失敗しないためのポイント、中小企業の成功事例を交えて解説
台湾は中国との複雑な関係にありますが、中国とは異なり民主主義国家のため、日系企業が台湾に進出し、ビジネスを行う環境としては有望な市場です。
この記事では、台湾市場への進出を検討されている方や、自社事業が台湾市場に適しているのか判断したい方に向けて、市場調査で失敗しないためのポイントや中小企業の成功事例を解説しております。
本記事を通じて、台湾市場への参入、台湾市場における事業拡大の一助となれば幸いです。
台湾の基礎データ
市場調査を進める前に、まずは台湾という国の基本情報を理解しておくことが必要になります。
まずは、外務省や出島などがウェブ上で公開している情報にはすぐにアクセスできるため、そこからインプットを進めると良いです。
下記は外務省が公開している台湾の基礎データです。
台湾は製造業(特に機械・電子部品)が主要産業であり、自国で生産したものの多くを周辺国に輸出をしている。日本にも年間400億ドル近くを輸出している状況です。
概要
面積 | 3万6千平方キロメートル(九州よりやや小さい) |
人口 | 約2,342万人(2024年1月) |
主要都市 | 台北、台中、高雄 |
言語 | 中国語、台湾語、客家語等 |
経済
名目GDP | 7,608 億米ドル |
一人当たりの名目GDP | 32 千米ドル |
主要産業 | 電子部品、化学品、鉄鋼金属、機械 |
主要な貿易相手国 | 輸出:中国、米国、香港、日本、シンガポール 輸入:中国、日本、米国、韓国、オーストラリア |
日本との経済関係
貿易額 | 輸出:443.3億ドル 輸入:314.4億ドル |
主要品目 | 輸出:機械・電子部品、基本金属・製品、プラスチック・ゴム、化学品 輸入:電子部品、一般機器、化学品、金属・金属製品、光学・精密機器 |
日本からの直接投資額 | 6.2億米ドル |
下記は1人あたりの名目GDPの推移を示しております。
1980年以降の推移ですが、2023年にかけて落ち込むことなく成長傾向にあります。
隣国である韓国に対して台湾の1人当たりGDP(国内総生産、名目)は2003年に逆転されて以来、追い付くことができない状態が長く続いておりましたが、国際通貨基金(IMF)の推計によると、台湾の1人当たりGDPは3年後の25年に4万2801ドルに達し、韓国の4万2719ドルを小幅で上回る見通しです。1つの指標からみても、台湾市場は拡大傾向にあり、有望な市場であることが分かります。
2022年に株式会社帝国データバンクが行った調査によると、台湾に進出している企業は3,124社あり、進出地域では台北市・新北市・基隆市の台北首都圏が大半という結果でした。一方で、中部・南部の進出している企業もみられ、半導体産業向けの業種・企業が多く目立つ結果となりました。全体の約4割を占めている「製造業」で最も多い業態は、半導体用のエッチング装置やフッ素樹脂加工装置など「半導体製造装置製造業」で38社となっています。
「製造業」の次に多く割合を占めるのは「卸売業」で、全体の3割に当たる918社。そのうち、産業用の「電気機械器具卸売業」が186社となっています。
上記の結果から分かる通り、半導体産業向けの素材や機械の製造、流通を事業とする企業の数が目立っています。この傾向は今後も続くことが予想されるため、同業種の日系企業は動向をキャッチアップしていくことが推奨されます。
台湾が注目される理由
先ほどの項目では、台湾の基礎データと日系企業の進出動向を解説し、台湾という国が今後も成長していくことが予想できたと思います。ここでは、なぜ台湾が日系企業の進出国として人気を集めている理由を3つご紹介いたします。
台湾をハブとし、中国・東南アジアへの展開の足がかりにできる
中国や東南アジア地域は地理的にも近く、アクセスがしやすいメリットがあります。具体的な台湾から下記の国々への距離は、以下の通りです(台北から各首都までの直線距離)。
- ベトナム(ハノイ)まで:約1,667キロメートル
- 中国(北京)まで:約1,722キロメートル
- タイ(バンコク)まで:約2,535キロメートル
- マレーシア(クアラルンプール)まで:約3,233キロメートル
- シンガポールまで:約3,250キロメートル
- インドネシア(ジャカルタ)まで:約3,822キロメートル
特に中国とベトナムに関しては、市場規模が大きく、2010年代から日系企業が多く進出しています。
また、近年は中国の地政学的リスクからベトナムへの進出が増えています。ベトナムは東南アジア地域の中でも人件費が安い傾向があるため、製造拠点を設けるケースも増えています。
親日かつ活発な市場
台湾は、人口が約2,342万人の市場があり、高い購買力と日本のサービスに対する受容度が高い傾向にあります。特に高品質な商品やサービスに対する需要が高く、新しいテクノロジーやトレンドに対しても開放的な傾向が見られます。特に、日本の家電製品、カメラ、オーディオ機器などは、高品質と信頼性が購入の決め手となり、台湾でも広く愛用されています。
また、台湾のオーディオ機器市場については、2023年の市場規模が約142億3,000万米ドルで、2028年には200億1,000万米ドルに成長すると予測されています。(予測期間中の年平均成長率は脅威の7.06%です)
高品質な製品に対する需要が高いこと、そして技術革新による新しい製品への関心が高まっていることが、この市場成長の背後にある要因と考えられます。
低い法人税率
台湾の法人税率は20%と、世界的に見ても比較的低い水準に設定されています。これにより、利益の大部分を再投資や事業拡大に用いることができ、企業の成長を促進することができます。
さらに、特定の産業や投資に対しては、税制上の優遇措置が設けられていることがあります。たとえば、研究開発(R&D)投資や新興産業への投資に対する税額控除や、特定地域への投資に対する優遇税率などがあります。
これから台湾に参入を検討している中小企業にとって、税負担が軽いことは非常に大きなメリットになるかと思います。
台湾への進出において市場調査が必要不可欠な理由とは
他国に比べて公開情報が少ない
参入の検討時において、最初のステップとして市場規模や競合に関する情報収集されるかと思いますが、中国やアメリカなどの先進国と比べて、台湾は日本語でリサーチを行った際に出てくる情報がかなり限られています。中国やアメリカであれば、日本語で調べても十分活用できる情報がでてくることが多いです。その理由として、すでに参入している日系企業が多く、調査会社や参入した日系企業がIRなどで市場概況に関する情報を公開しているためです。
一方で、台湾に関しては、まだ現地の日系企業や台湾に特化した調査会社が少ないことが背景として有益な情報が公開されていない状況です。
調査のポイントとしては、中国語で調査を行うことで、比較的多くの現地の情報を収集することが可能となります。それでも、公開情報だけでは、市場参入への決断を決められるケースは多くはありません。社内でリサーチがあまり捗らない場合や決断に困っている場合は、ぜひ弊社のような、調査に特化し台湾現地の事情に精通した調査会社にご依頼ください。
自社で行うことで都合の良い情報のみを収集してしまう
市場調査を自社で行う際に陥りやすい落とし穴として、自分たちに都合の良い情報だけを集めてしまうこと(バイアスがかかった状態)で、解釈を誤り、重要な意思決定がぶれてしまうということです。
都合の良い情報の例としては、競争市場のポジショニング分析を見誤る、市場規模を大きく見積もってしまうなどが挙げられます。
特に競合に関する情報については、公開されていない情報も多く、自社だけで行うには大変な障壁があります。
台湾市場の調査に特化している弊社で行う海外の競合の調査の流れとしては下記です。
※調査の一部を抜粋しております。実際には、より多角的な調査を行います。
1.競合をリストアップし、競争環境を可視化する。
自社の事業内容と類似するサービスや製品を取り扱う企業を抜け漏れなくリストアップし、ベンチマークする企業を特定することが重要です。次のステップでその企業を深堀調査します。
2.競合の深堀調査を行い、成功・失敗要因を特定する。(ベンチマーク調査)
ベンチマークするべき企業を漏れなくピックアップした後で、調査を深堀って行うことで、なぜその企業が台湾市場で一定の売上・利益を獲得できているのかを分析します。その際に、自社が参考にできること、真似すべきポイントがないかという観点でリサーチすることが参入時の事業計画を策定するうえで重要となります。
例えばですが、広告宣伝をどのような媒体を使い、どのようなクリエイティブで訴求しているのか、なぜそのクリエイティブが有効だった背景を考察する などが一例として挙げられます。
顧客の慣習やニーズの違い
当然ではありますが、日本の慣習や購買行動とは大きく異なります。相違点を理解し、適切な調査を行うことで、ニーズの分析・把握につながります。また、これらの情報は、価格設定やマーケティング活動の参考となります。
下記では、台湾における顧客の特徴をいくつかピックアップして記載します。
ソーシャルメディアの影響力
台湾ではソーシャルメディアを通じた情報収集や意見交換が非常に活発であり、これは日本の消費者と比較しても特に顕著です。台湾では、商品やサービスに関するレビューが購買決定に大きな影響を与えます。
価格感度
台湾の消費者は価格に敏感ではあるのですが、品質やブランドイメージが価格を上回る価値を提供する場合、高価な商品にも投資する傾向があります。一方で、日本の消費者は価格と品質のバランスを重視し、無駄遣いを避ける傾向があります。
地域文化の影響
台湾では地域ごとの文化的差異が消費行動に大きく反映されるのに対し、日本では全国的に似たような消費傾向が見られることが多いです。これは、台湾が小さいながらも多様な文化的背景を持つ地域性を反映しています。
具体的には下記のような地域ごとの違いがあります。
・北部(台北を含む):首都である台北は、国際的な都市であり、現代的で洗練された文化が根付いています。アート、ファッション、グルメなど、多様な文化的要素が融合しています。その背景には、多くの移民や外国人が住む地域であることがあります。
・中部(台中を含む):台中は台湾の文化的な中心地の一つで、多くのアートギャラリーや文化施設があります。自然との調和を大切にした都市計画が特徴があるととともに、特に美食の街として知られ、台湾料理の伝統的な味を堪能できる場所として有名です。
・南部(高雄、台南を含む):南部は台湾の歴史と伝統が色濃く残る地域で、特に台南には古い寺院や伝統的な建築物が多く残っています。また、台湾の農業は南部に集中しており、果物や野菜の生産が盛んです。
・東部(花蓮、台東を含む):台湾の先住民族の多くがこの地域に住んでおり、独自の文化や伝統を保持しています。音楽、ダンス、工芸品など、先住民文化を体験できる機会が多いです。
台湾で調査をする際に必ず押さえるべき調査項目
台湾市場に参入する際には、正確で多角的が市場調査が必須になります。ただ、闇雲に調査を行うのではなく、しっかりと意味のある結果を出すためには調査項目を事前に設定することがマストです。
下記は私たちが調査を行う際に用いている項目の一例になりますので、ぜひ参考にしてみてください。
※例として、お菓子に関する調査を取り上げております。
市場規模と成長率
・台湾のお菓子市場の現在の市場規模と過去数年間の成長率を調査します。
・将来の市場成長予測を含め、成長を裏付ける要因を掘り下げます。
消費者動向
・台湾の消費者が好むお菓子の種類やその傾向を調査します。
・健康志向、オーガニック製品、地元産の原材料への関心など、消費者の価値観や動向を分析します。
競合分析
・台湾市場における主要なお菓子ブランドや企業を特定します。
・競合他社の製品ラインナップ、価格戦略、販売チャネル、マーケティング戦略を分析します。
販売チャネル
・お菓子が販売されている主要なチャネル(スーパーマーケット、コンビニ、オンラインショップ等)を調査します。
・各販売チャネルの市場シェアやポテンシャルを分析・評価します。
製品カテゴリーと付加価値
・市場で人気のあるお菓子のカテゴリー(チョコレート、ガム、ビスケット等)を特定します。
・新商品や定番商品などの、どういった要素が大衆に人気なのか潜在ニーズを分析します。
規制と政策
・台湾における食品安全規制やお菓子製品に関する特定の法律、政策を調査します。
・輸入製品に対する関税や規制など、市場への進出障壁になり得る政策を分析します。
文化的要因
・台湾の文化や伝統がお菓子の消費にどのように影響しているかを分析します。
・祭りや特別なイベントで消費される伝統的なお菓子について調査します。
SWOT分析
・Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の観点から、市場全体を分析します。
上記の観点で抜け漏れなく調査を行うことが非常に重要になりますが、その際には適切な調査手法を用いることが求められます。次の項目では、手法に焦点を当てて説明を行います。
台湾市場を調査する際の適切な調査手法
デスクリサーチ
調査方法:業界分析、政府や業界団体が公開する統計データ、ニュース記事、会社のIRなどから情報を収集します。
目的:市場の基本的な理解を得ることや、市場規模、成長率、主要企業、業界のトレンドなどの基本情報を集めることです。
アンケート調査
調査方法:オンラインや対面で消費者や業界関係者にアンケートを実施します。
目的:消費者の好み、購買行動、製品に対する意識、新製品に対する需要などを調査することです。
フォーカスグループインタビュー
使用方法:特定のテーマや製品について、消費者や業界の専門家を小グループに集めて意見交換を行ってもらいます。
目的:消費者の深層心理や製品に対する具体的な意見、市場のニーズやトレンドを探ることです。
デプスインタビュー(有識者インタビュー)
使用方法:業界の専門家、小売業者、消費者など、特定の個人に対して詳細なインタビューを行います。
目的:市場の洞察を深める、特定の問題についての詳細な情報を得ることです。
実店舗調査
使用方法:実際に店舗を訪れ、消費者の購買行動や製品の陳列方法などを観察します。
目的:実際の消費者行動を理解し、販売戦略や製品の配置についての洞察を得ることです。
商品データ分析
使用方法:小売業者やオンラインマーケットプレイスから得られる販売データを調査・分析します。
目的:どの製品がよく売れているか、季節性や地域性の傾向を理解することです。
いくつかの調査手法を組み合わせることで、市場環境を可視化することが可能となります。
台湾の市場調査で注意するべきポイント
文化的背景の理解
前段においても触れていますが、台湾については日本と異なる文化や歴史的背景、消費者習慣を持っています。そのため、日本人が自分たちの感覚で情報を見て理解するのではなく、それらの事情に精通した現地の調査員に任せることで、意義のある調査となります。
適切なインタビュイーの選定・リクルーティング
調査手法の中で取り上げたデプスインタビューについては、適切なインタビュイーを選定する必要があります。
ただ、現地のネットワークやモニターパネルを有していな場合は、そもそも候補者をリストアップすることができません。意味のある、分析に足るアウトプットを取得するためには、台湾市場のネットワークに強みを持った弊社のような調査会社に頼んでみることも検討してみてください。
日本国内で調査を完結させず、現地に訪問する
昨今、オンラインMTGツールなどが普及したことで、現地の方とオンラインでつながるようになりました。
しかし、実際に現地に足を運ぶことで市場の理解がより深まります。その際には、調査会社の担当者にアテンドを頼むことでスムーズの市場調査が可能となります。
具体的なメリットとして現地を訪問することで、市場の雰囲気や消費者の実際の行動を直接観察し、生の市場データを収集できます。これにより、書類上のデータでは得られない現地の市場感覚やトレンドをつかむことができます。
台湾に進出した中小企業の成功事例
本項目では、台湾に進出をした日本の中小企業の事例を取り上げます。
事例についてはJETRO活用事例、J-Net21を参照しております。
株式会社英田エンジニアリング
同社はフォーミングロール(金型)の生産をはじめ、冷間ロール成形機・造管機などを手掛けます。20年を超える製造実績を生かし、IT技術を駆使したコインパーキングのシステムを開発・製造を行っております。
台湾進出の背景
同社は中国に現地法人を持っており、これまでは現地で製造した商品を日本に輸入して販売をするフローを主流としていました。今後の方針を社内で議論した際に、海外販売の検討を開始。以前から輸入取引があり、同社で製造しているフラップ式の個別ロック型コインパーキングがほとんど普及していなかったことから、10年以上前から注目していた台湾での販売を決めました。その後、2016年からジェトロ「新輸出大国コンソーシアム」の専門家支援を得て、現地でパートナーとなる会社を見つけ事業をスタートさせました。
パートナー企業は、広い駐車場を持っている企業でしたが、個別ロック式コインパーキングは未導入の状態でした。その後、精算機6台とフラップ100台を受注をいただきました。
しかし、納品直前に台湾総統が選挙で交代となり、税金の徴収が厳しくなったことから納品直前のシステムを急きょ変更する必要が発生。台湾では領収書発行の際、使った人間が会社コードを精算機に入力すると発行されますが、選挙後は、領収書の発行と同時にそのデータを税務署へも送信することが義務付けられるようになりました。システム変更は大掛かりなものでしたが、すぐに対応して3カ月程度の遅延で納品。この対応の速さでパートナー企業から大きな信頼を得ることができました。
進出成功の要因
成功要因としては、ジェトロに、現地法人設立から会社運営まで適切なサポートを受けたことと考えられます。
株式会社加賀屋
同社はプロが選ぶ日本のホテル旅館100選で32年連続日本一の評価される日本旅館です。
台湾進出の背景
国内での圧倒的な評価を背景に、アジアやヨーロッパ諸国などから熱心に加賀屋のブランド、システムの現地展開について打診を受ける中、来訪実績等を考慮し、台湾の現地不動産開発会社からあった申し出に応じ、合弁会社を設立し、フランチャイズにより展開しました。
進出成功の要因
文化や言葉の違いを考えつつ、畳、着物、和食、客室係のきめ細やかなサービスを提供し、好評を得ました。
このことから、日本国内で評価を受けること、そして現地に対して適切なマーケティング戦略を実行することが大切と考えられます。
まとめ
台湾市場は中国や東南アジア地域への進出の際の足がかりとして魅力的な国です。
特に製造業に従事している方は他社事例などを参考にし、参入に向けた検討を進めてみてはいかがでしょうか。また、市場調査を行う際には、調査項目を設定したうえで適切な調査手法を用いて市場の可視化を行いましょう。
弊社としては、調査項目の設計から調査の実施、分析まで一気通貫でご支援をしております。自社で人材が不足していたり、専門家の意見を聞きたいなどの問題・ご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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