ベトナムの市場調査の調査方法や押さえるべきポイントを徹底解説
現在ベトナムは、アジア地域でも特に成長が著しい国として、注目を集めております。
そのため多くの日系企業が、進出や事業展開を検討しており、市場調査を行うことが増えています。
ベトナムの市場調査を行う理由としては、
「自社事業がベトナム市場に適しているか判断したい」
「収益が見込まれる市場なのかを調べたい」
などが多くあげられます。
この記事では、ベトナム市場への新規参入やベトナムでの調査を検討されている方に最初に読んでいただくような入門編となる位置づけのものです。本記事を通じて、ベトナム市場の基礎情報の理解、東南アジア市場における事業拡大の一助となれば幸いです。
ベトナムの市場調査が必要不可欠な理由
ベトナム市場の多様性
ベトナムは近年、急速な経済成長を遂げており、消費者の嗜好や購買力が変化しています。
世代や地域によって消費者の行動や嗜好が全く異なるため、それぞれの特性を理解するために市場調査が必要です。例えばアンケート調査を行う場合はエリアごとに回収数を設定し、地域軸で結果を分析しなければなりません。
ベトナムの文化的背景への理解
ベトナム市場の特徴は地域によって大きく異なります。また歴史に対する理解も必要不可欠です。ここではベトナムの近現代史について、簡単にご説明いたします。
ベトナム戦争(アメリカ戦争)
1955年から1975年にかけてのベトナム戦争は、国の分断と深刻な社会経済的な影響をもたらしました。また戦争により南北で異なる経済システムが確立されました。戦後、南部(特にホーチミン市周辺)は急速に市場経済に適応し、国際貿易や外国投資が集中しました。一方、北部(特にハノイ周辺)はより計画経済的な体制が長く続き、経済発展において南部に後れを取ることがありました。
統一後の改革(ドイモイ)
1986年に開始されたドイモイ政策は、ベトナムを計画経済から市場経済へと移行させました。この改革はベトナムの経済成長と国際化を促進し、現代の市場環境を形成しています。
ASEAN加盟と国際関係の拡大
ベトナムは1995年にASEANに加盟し、その後も積極的に国際社会に参加しています。これはベトナムの外交政策と経済的な開放を象徴しており、国際ビジネスにおけるベトナムの役割を理解する上で重要です。
競争が激化している市場環境
多くの外国企業がベトナム市場に参入しているため、競争が激化しています。
市場の動向、競合他社の動き、トレンドの変化を把握するためには、正確な市場調査が不可欠です。加えて、南北の産業構造の違いも調査を行う上でのポイントです。
北部(首都ハノイ周辺)は政治的、文化的な中心地であり、より伝統的な産業が栄えています。一方、南部(特にホーチミン市周辺)は経済活動が活発で、国際貿易や近代的な産業が盛んです。自社の事業によって、調べるべき対象やエリアが異なります。
【地域別】ベトナム市場動向の特徴
ベトナムに進出する際、調査すべきは二大都市である「ハノイ」と「ホーチミン」です。
二つの都市の文化を理解しておくのは、ベトナムでビジネスをする上で非常に重要です。なぜなら歴史的背景や気候風土の違いにより、消費者の価値観やライフスタイルに大きな違いがあるからです。
ここからは二大都市に加えて、その他の都市についても解説します。
①ハノイ
ハノイはベトナム北部に位置する首都で、人口約858万人を擁する政治と文化の中心地です。落ち着いた雰囲気の街並みであり、現地の人々の気質としては、関係性を重視する傾向があります。
経済面では政府主導の市場経済導入による影響を強く受けており、ハノイはベトナム全体の経済成長率(5~7%)を上回る7~9%を達成しました。
商業的には従来の主流だった、個人商店や雑貨屋などの業態から、大型スーパーやショッピングモールへの転換が進んでいます。この変化は外資系の小売企業にとって新たなビジネスチャンスです。
さらにスマートシティ建設やハイテク農業、情報技術分野への投資も積極的に進められており、人工知能やビッグデータ分野での人材育成が求められています。
ハノイは政治・文化の伝統を生かしつつ、近代的な経済成長と消費市場の進化を遂げる、魅力的な都市といえるでしょう。
②ホーチミン
ホーチミンは約890万人の人口を擁するベトナム最大の都市です。平均年齢は31歳で、若さに満ちた経済の中心地です。西洋文化の影響を強く受けた街並み、合理性を好む人々が多いホーチミンは、多国籍企業の拠点としても重要な役割を果たしています。
教育と国際交流の面でもホーチミンは注目されており、日本語教育を行う学校やインターナショナルスクールが充実しています。
さらに法人税軽減や、工業団地進出時の関税免除などの優遇措置により、企業活動のコスト面でのメリットも魅力の一つです。
産業としてはサービス業、工業・建設業、観光業、ITが主力であり、製造業や不動産業、ICT産業などへの外国直接投資(FDI)も盛んです。
農水産資源が豊富で、特にコメ、マンゴーやココナッツ、カシューナッツ、エビ、ナマズなどが主要産品です。この資源は国内外への輸出に貢献しており、経済を支える柱の一つとなっています。
このようにホーチミンは商業、製造業、国際貿易における中心地であり、若い人口構成による持続的な発展が期待される近代都市です。
③その他
二大都市に次いで注目されているのが、ダナン、ハイフォン、カントーです。ハノイとホーチミンを含むこれら5つの市は、ベトナム政府の「中央直轄市」であり、国の中心を担う都市です。
ダナンはベトナム中部に位置し、南北を結ぶ物流と貿易の拠点として重要な役割を果たしています。人口約122万人(2022年時点)を擁し、リーズナブルな不動産価格とビジネスコストが魅力です。繊維業や消費財製造などの産業が発展しており、成長が期待されています。
ハイフォンは北部最大の貿易港「ハイフォン港」を有し、工業を中心に発展してきた人口約200万人の都市です。ラックフェン深水港やハイフォンーハノイ間高速道路の開発により物流が効率化され、多くの外国企業が進出しています。外国人駐在員の増加に伴い住環境も向上しています。
カントーは農産物や水産加工物の物流ハブとして知られており、メコンデルタ最大の都市です。カントー国際空港やホーチミン市との高速道路の開通により、交通インフラが飛躍的に発展しました。観光名所として有名な「カイラン水上マーケット」は世界から注目を集めています。
アフターコロナにおけるベトナムの市場動向
コロナ禍ではベトナム経済も大きな影響を受けましたが、「3 Tại Chỗ(Three-on-site:従業員の職場での就労・食事・睡眠を一か所で行う方式)」をはじめとする、ベトナム政府の徹底的な感染対策によって、経済活動は継続されました。
政府は22年以降、免税や減税対策を維持し、24年第3四半期には前年同月比7.4%の成長が見込まれるなど、経済回復が順調に進んでいます。
パンデミックを機に、国内ではキャッシュレス化が浸透しました。22年に実施されたVISA社の調査によると、国民の32%が現金の使用をやめると回答しました。この変化はデジタル決済の需要拡大と、新たなビジネスチャンスを生み出す要因です。
ベトナム市場が注目される経済的要因
東南アジアにおいてベトナムという国がなぜ注目を集めているのか、多くの日系企業が参入をしている背景やその理由をご紹介いたします。
豊富で低コストな労働力
ベトナムは若い人口が多く、労働年齢層(15歳から64歳)が全人口の約70%を占めています。さらに低い労働コストが魅力的です。これにより製造業を中心に多くの企業が進出しています。
インターネットユーザーの増加によるEC売上高の向上
コロナ禍でのキャッシュレス浸透に伴い、スマホの普及が進んだことで、EC売上高も増加しました。ベトナムのインターネットユーザーは人口の79%にものぼり、うち97%がスマホを所有しています。
中国のEC大手LzadaやAmazonが進出しており、Eコマースのビジネスチャンスが広がっています。
富裕層の拡大に伴う経済成長
純資産が3,000万ドル(約42億円)を超える、超富裕層の増加も注目を集める要因です。イギリスの不動産コンサルタント会社「ナイトフランク」によれば2017年には538人でしたが、22年には1059人に増加、27年には1300人に上る見込みです。
地政学的な位置
ベトナムはアジアの中心に位置し、東南アジア諸国連合(ASEAN)市場へのアクセスが良いため、地域的な物流ハブとしての役割を果たしています。
ベトナムから周辺国へのフライト時間を見てみると、アクセス性に優れていることが一目でわかります。
- カンボジア(プノンペン): 約1時間
- ラオス(ビエンチャン): 約1時間20分
- タイ(バンコク): 約1時間30分~2時間
- マレーシア(クアラルンプール): 約3時間
- シンガポール: 約2時間
- インドネシア(ジャカルタ): 約3時間30分
- フィリピン(マニラ): 約3時間
- ミャンマー(ヤンゴン): 約2時間
- 中国(北京): 約4時間30分~5時間
ベトナム市場が注目される政治的要因
ベトナムは共産党一党支配による社会主義体制を採用しつつ、1986年のドイモイ(刷新)政策以降、市場経済システムを積極的に取り入れています。計画経済と市場原理を組み合わせた独自の経済発展モデルは「社会主義志向の市場経済」として国際的に注目を集めています。
ドイモイ政策
ドイモイ政策は、ベトナム政府が主導した市場経済を導入するための政策です。
ドイモイとは「新しい変化」や「刷新」を意味し、次のような観点から進められました。
- 資本主義経済の導入
- 国際社会への協調
- 国民生活に必要な産業への投資
- 社会主義政策の緩和
この政策によってベトナムの経済は内外から活性化し、今日の発展に至ります。
安定した政治環境
資本主義が普及したとはいえ、ベトナムは社会主義国家です。一党独裁の安定した政治環境を維持しており、外国企業にとっては政治リスクの少ない、投資しやすい国と言えるでしょう。
政府の積極的な外資誘致策
ベトナム政府は外国直接投資(FDI)を積極的に誘致しており、税制優遇措置などのインセンティブを提供しています。
これらの要因からわかるように、ベトナムは日系企業にとって魅力的な国であり、特に製造業やインフラ、サービス業など多岐にわたる分野で日系企業の進出が進んでいます。
ベトナムの産業構造
産業別実質GDP
実質GDP で見たベトナムの産業構成比(2020年)は、第 1 次産業が 11.3%、第 2 次産業が36.4%、第 3 次産業が 42.9%、生産上の課税補助金(Products taxes subsidies on production)が 9.4%となっています。2010 年との比較で見ると、「製造業」(17.1%→22.7%)の構成比が相対的に上昇し、「第 1 次産業」(15.4%→11.3%)が低下しています。
ベトナムの輸出入
2020年時点での輸出額は2740億ドル(対前年比3.7%増)、輸入額は2570億ドル(同1.6%増)となり、輸出入額は5310億ドル(同1.7%増)となっています。また、貿易収支は+169億ドルの黒字(対前年比138億ドル増)でした。ベトナムは中国・韓国から素材・部品を輸入し、国内で組み立て、米国、EUに完成品(縫製品、履物、PC、携帯電話)を輸出する構造が主となっているようです。
輸出品目別では、第一位が携帯電話・部品、第二位がコンピューター・部品、第三位が縫製品となっています。
日系企業のベトナム進出動向
ベトナムに進出している日系企業の業種は多くがメーカーや小売・卸です。
トヨタやホンダなどの自動車メーカーはもちろんのこと、イオンをはじめとする小売業態の出店も相次いでいます。2023年11月にはニトリホールディングスがベトナムに進出すると発表し、同社は今後10年間でベトナムに70店を展開する計画を掲げています。
外務省によると日系企業の進出数は、2012年の1,081拠点から、2023年には2,394拠点に増加。約10年で2倍以上となっており、多くの日系企業が注目していることが見て取れます。
すでに進出している日系企業が、ベトナム国内でのサプライチェーン安定を目的に、日本国内のサプライヤーに進出を促す動きもあり、今後も多くの企業の進出が予測されます。
ベトナムの市場調査で用いる調査手法
ベトナムで有効な調査手法は次の4つです。
- 公開情報調査(デスクトップリサーチ)
ベトナムでは日本と同じく検索エンジンにGoogleが使用されているため、ネットでの情報収集が有効です。まずは公開情報をネットから収集しましょう。 - アンケート調査
スマホ所有率の高いベトナムでは、オンラインでのアンケート調査が有効です。費用対効果が高く、大量のデータ収集が可能です。 - インタビュー調査、グループインタビュー調査
地域ごとに文化や嗜好が大きく異なるベトナムでは、アンケートによって得られる定量的なデータのみでは、深い分析ができません。個人やグループでのインタビューを通して市場理解を深めます。 - エスノグラフィー調査(行動観察調査)
地域ごとの特性をさらに深く理解したい場合は、エスノグラフィー調査が有効です。インタビューと異なり、長期的に調査対象者と同じ環境に身を置くことで、文化や生活環境の把握に役立ちます。農村部や特定民族についての調査に有効です。
ベトナムでの新規事業計画を成功させるなら
今回はベトナムの市場調査に関して紹介しました。
製造業を中心に日系企業の進出が加速していますが、新規事業計画を成功させるには綿密な市場調査が必要です。
市場特性を踏まえた詳細な事業計画を立案し、各地域の商習慣や消費者ニーズに応じた段階的な展開を検討しましょう。特に、ハノイとホーチミンでは消費者の行動様式が大きく異なるため、地域別の市場参入戦略の策定が不可欠です。
AXIA Marketingでは豊富な調査経験と、専門知識を活かした市場調査サービスを提供しています。データ収集から分析、戦略提案に至るまで貴社のニーズや状況に寄り添った対応を心がけています。詳しいサービス内容はこちらを参考ください。
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