ドイツの市場調査の方法とは?成功するための方法とビジネス環境を解説

ドイツは欧州最大の経済大国として、多くの日本企業が注目する魅力的な市場です。しかし、市場参入を成功させるためには、綿密な市場調査と現地のビジネス環境の理解が不可欠です。本記事では、ドイツ市場の特徴や調査方法について、実践的な視点から解説していきます。
- ドイツの基本情報
- ドイツ進出における市場調査の重要性
- ドイツの市場調査のやり方とメリット・デメリット
- ドイツのビジネス環境
- ドイツ進出に成功した日系企業の事例
【ドイツ市場調査】ドイツの基本情報

ドイツは単なる経済大国というだけでなく、EUの中心的存在として政治的にも重要な位置を占めています。高度な技術力と革新性を誇る製造業基盤、環境技術への積極的な投資、そして安定した社会システムを備えた同国の基本情報から、市場の可能性を探っていきましょう。
概要
面積 | 35.7万平方キロメートル |
人口 | 約8,482万人 |
首都 | ベルリン |
民族 | ドイツ人(約91%)、トルコ系(約2%)、その他(約7%) |
言語 | ドイツ語 |
宗教 | カトリック(24.8%)、プロテスタント(22.7%)、ユダヤ教(0.1%) |
主要産業 | 製造業(自動車、機械、化学品)、サービス業、エネルギー関連(再生可能エネルギー) |
経済
ドイツ経済は安定した成長を続けており、一人当たりGDPは47,477ドル(2018年)を記録しています。財政政策では健全性を重視しており、2009年の憲法改正により政府の財政赤字をGDP比0.35%以内に抑制することを定めています。この取り組みは着実な成果を上げ、2016年以降は財政黒字を維持しています。
GDP構成比を見ると、個人消費が52.2%と最大のシェアを占め、政府支出と総資本形成がそれぞれ20.3%と21.4%となっています。特に個人消費の堅調さが経済成長を下支えしており、これは労働市場の良好な状況を反映しています。2008-2009年の金融危機で一時的な落ち込み(2009年:前年比マイナス5.7%)を見せたものの、政府の経済対策が功を奏し、その後は年平均2%程度の安定成長を実現しています。
人口動態では、出生率の改善(1.4前後から1.6程度へ)と移民の受け入れにより、2012年以降、人口増加傾向に転じています。失業率も改善を続け、2019年には東西ドイツ統一以降最低の5.5%を記録しています。特に注目すべきは、高度な技術を持つ外国人材の積極的な受け入れにより、産業の競争力強化にもつながっている点です。
産業
ドイツの産業構造は、一次産業が約1%、二次産業が約30%、三次産業が約70%という比率となっています。特筆すべきは、他の先進国(G7)と比較して製造業の占める割合が高く、これがドイツ経済の特徴となっています。
製造業の中核を担うのは自動車産業で、製造業全体の売上高の20%以上を占めています。その他の主要産業として工業機械が約13%、金属加工が約12%、化学品が7%と続き、それぞれの分野で世界をリードする企業を擁しています。代表的な企業として、自動車産業ではフォルクスワーゲンやBMW、化学産業ではBASF、電機産業ではシーメンスなど、グローバルに展開する企業が多数存在しています。
三次産業の内訳を見ると、公共・教育・医療分野が全体の約27%を占め最大のシェアとなっています。次いで運輸・宿泊・外食分野が約23%、ビジネス業と不動産業がそれぞれ約16%と約15%となっています。
近年は環境技術分野も急成長しており、2022年までに国内の原子力発電所をすべて閉鎖し、再生可能エネルギーへの転換を進めるなど、環境先進国としての地位を確立しています。
貿易
ドイツの貿易は、2019年時点で輸出額約1兆3,300億ユーロ、輸入額約1兆1,000億ユーロを記録し、2,000億ユーロ以上の安定した貿易黒字を維持しています。EU域内での貿易が全体の約60%を占めていますが、特定の国への過度な依存を避け、バランスの取れた貿易構造を実現しています。
主要な輸出品目は、自動車と工業機械がそれぞれ全体の約17%と15%を占め、次いで電子機器と化学品がともに約9%となっています。輸出相手国は、EU域内ではフランス(8%)、オランダ(7%)が、域外ではアメリカ(9%)、中国(7%)が上位を占めています。特に中国との貿易は増加傾向にあり、オランダ、イギリスを抜いて第三位の輸出相手国となっています。
物流面では、国際物流競争力(LPI)で2018年度に世界一の評価を受けています。フランクフルト空港はヨーロッパ第4位、ミュンヘン空港は第9位の規模を誇り、ハンブルク港はヨーロッパ第3位の取扱量を記録。さらに、無料の高速道路網が整備され、効率的な物流ネットワークを構築しています。
また、対日貿易も安定的に推移しており、対日輸出額は約200億ドル(全体の約1.5%)、対日輸入額は約300億ドル(全体の約2.2%)となっています。主な対日輸出品は消費財(21%)、資本財(19.2%)、対日輸入品は資本財(28.8%)、工業機械・電気機器(22.4%)が中心となっています。
ドイツと日本の関係
ドイツと日本は世界経済における重要なパートナーです。2023年の貿易実績によると、日本からドイツへの輸出が約22億ユーロ、ドイツから日本への輸出が約40億ユーロを記録しました。主な貿易品目は、日本からは自動車部品や電子機器が、ドイツからは自動車、医薬品、化学製品が輸出されています。
投資面では、日系企業が500社以上ドイツに進出し、欧州市場への展開基地として活用しています。一方、BMWやシーメンスなどのドイツ企業も日本市場で存在感を示しています。両国は再生可能エネルギー、AI、ロボティクスなどの先端技術分野でも協力関係を深めています。
文化面では、「ドイツビール祭り」や「日本デー」など、相互理解を深める取り組みが定着。グローバル化が進む現代において、この経済・文化両面での協力は、両国の持続可能な発展に重要な役割を果たしています。
特に注目すべきは、両国のスタートアップ企業間の協力関係の深化です。ベルリンと東京を結ぶスタートアップ交流プログラムには年間100社以上が参加し、イノベーション創出の基盤となっています。
ドイツへの進出の際に市場調査が重要になる理由

ドイツ市場への進出を成功させるためには、徹底的な市場調査が不可欠です。EU最大の経済大国であるドイツは、魅力的な市場規模を誇る一方で、独自の商習慣や規制環境を持っています。以下の4つのポイントを中心に、市場調査の重要性を解説します。
- 厳しい規制環境
- 地域的多様性の理解が不可欠
- 現地の価値観や嗜好への理解
- 高い競争レベル
これらのポイントは相互に関連しており、一度の調査で完了するものではありません。市場環境の変化に応じて継続的に見直し、調査結果を更新していくことが重要です。それでは、各ポイントについて具体的に解説していきます。
1. 厳しい規制環境
ドイツの法規制は特に厳格で、製品安全基準や環境規制、労働法、消費者保護法などが複雑に絡み合っています。EUの規制に加え、ドイツ独自の基準も存在するため、事前の法的要件の把握が重要です。例えば、製品のCEマーキング取得や、包装材のリサイクル規制への対応が必須となります。
規制違反は高額な罰金や事業停止につながる可能性があり、徹底した事前調査が求められます。
2. 地域的多様性の理解が不可欠
ドイツは16の連邦州で構成され、各州が独自の経済政策や商習慣を持っています。例えば、バイエルン州は自動車・IT産業が集中する工業地帯である一方、ブランデンブルク州は農業が主要産業です。州ごとの所得水準や消費傾向も大きく異なるため、進出地域の選定には綿密な市場分析が必要です。
地域特性を考慮せずに進出すると、市場ニーズとのミスマッチが生じる可能性があります。特にノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW州)は、ドイツ16州の中で最も人口が多く、ルール地域に約510万人、ライン川沿岸地域に310万人が居住する大都市圏を形成しています。
日系企業の3分の1強の約600社がNRW州に拠点を置き、特にデュッセルドルフ地域とライン川沿岸地域に集中しています。これらの日系企業は同地域に約4万人の雇用を創出し、重要な経済基盤となっています。
3. 現地の価値観や嗜好への理解
ドイツの消費者は品質と持続可能性を重視し、環境配慮型製品やフェアトレード商品への関心が特に高いのが特徴です。製品の品質証明や環境認証の取得は市場での成功の鍵となっています。また、プライバシー保護への意識も高く、デジタルサービスを展開する際はデータ保護に関する徹底した対策が求められます。
特にドイツの消費者は、他のヨーロッパ諸国と比べて商品の品質に対して厳格な評価基準を持っています。広告やマーケティングにおいても、感情に訴えかけるアプローチよりも、シンプルで事実に基づいた情報提供を好む傾向があります。
環境保護への意識も高く、環境税(炭素税)の導入や包装廃棄物政令への対応など、企業の環境への取り組みも重要な評価基準となっています。
4. 高い競争レベル
ドイツ市場は国内外の企業による競争が激しく、特に中小企業の技術力と市場シェアは世界的にも高い評価を受けています。競合分析では、大手企業だけでなく、ニッチ市場で強みを持つ中小企業の動向も把握する必要があります。また、業界ごとの商習慣や取引慣行も異なるため、競合企業の戦略や成功要因を詳細に分析することが重要です。
これらの要素を適切に調査・分析することで、ドイツ市場進出の成功確率を高めることができます。次回は、これらの調査をより具体的に進めていく方法について解説していきます。
ドイツ市場特有の現象として、オンラインとオフラインのシームレスな統合(オムニチャネル)が進んでいることが挙げられます。特に小売業では、実店舗とEコマースの融合が加速しており、競合分析においてはこの両面からのアプローチが不可欠です。
ドイツにおけるビジネス環境

ドイツは、企業がビジネスを展開する上で多くの優位性を持つ市場です。特に地理的条件、インフラ整備、人材育成の面で際立った特徴があります。これらの要素は、ドイツ市場への参入を検討する企業にとって重要な判断材料となります。以下の3つのポイントを中心に、ドイツのビジネス環境の強みを解説します。
- ヨーロッパの中央に位置している
- インフラが整っている
- 教育制度が充実している
これらの強みは互いに連携し、ビジネスの成功を支える重要な基盤となっています。それでは、各要素について詳しく見ていきましょう。
1. ヨーロッパの中央に位置している
ドイツはEU27カ国の中心に位置し、「欧州市場への玄関口」としての役割を果たしています。9つの国と国境を接し、5億人以上のEU市場へのアクセスが容易です。この地理的優位性は、特に物流面で大きな強みとなっています。
例えば、ハンブルク港からは北欧諸国へ、ミュンヘンからは南欧諸国への輸送が効率的に行うことができます。
さらに中東欧諸国へのハブとしても機能し、新興市場へのアクセスも確保できます。このような立地条件により、多くのグローバル企業が欧州展開の拠点としてドイツを選択しています。
2. インフラが整っている
世界最高水準を誇るドイツのインフラは、ビジネスの効率性を大きく向上させます。フランクフルト国際空港は欧州有数のハブ空港として年間約7,000万人の旅客を扱い、200以上の目的地への直行便を提供しています。高速鉄道ICEは時速300kmで主要都市を結び、アウトバーン(高速道路)は総延長13,000km以上のネットワークを形成。さらに、5Gなどの最新デジタルインフラの整備も加速しており、2025年までに全土でのカバレッジを目指しています。これらの充実したインフラは、効率的な物流と事業運営を可能にし、企業の競争力向上に貢献しています。
3. 教育制度が充実している
ドイツ独自の「デュアル教育システム」は、座学と実地研修を組み合わせた実践的な職業教育を提供しています。約400種類の職業訓練プログラムがあり、年間約50万人の若者がこのシステムで学んでいます。特に理工系分野での教育水準は世界トップクラスで、自動車産業やエンジニアリング分野で即戦力となる人材を多数輩出しています。
また、企業と教育機関の密接な連携により、市場ニーズに合った人材育成が可能となっています。さらに、継続的な職業訓練制度も充実しており、従業員のスキルアップを支援する体制が整っています。
このような教育システムは、企業の技術革新と競争力向上に大きく貢献しています。
ドイツの市場調査方法とメリット・デメリット

ドイツ市場での成功を確実にするためには、適切な市場調査方法の選択が重要です。市場調査には以下の3つの方法があり、各方法のメリット・デメリットを詳しく解説します。
- 自社で調査する
- 支援機関を活用する
- 民間の調査会社を活用する
それでは、各調査方法の詳細について見ていきましょう。
1. 自社で調査する
自社で市場調査を実施する場合、調査の主導権を完全に握ることができます。必要な情報を細かく設定でき、データの解釈も自社のビジネスモデルに即して行えます。調査コストを最小限に抑えられ、得られた知見を社内で共有・蓄積できる点も魅力です。
一方で、ドイツ特有の商習慣や規制に関する知識が不足していると、重要な情報を見落とすリスクがあります。また、現地語での情報収集や人脈形成に時間がかかり、初期投資が予想以上に膨らむ可能性もあります。
2. 支援機関を活用する
JETROなどの支援機関を活用すると、信頼性の高い基礎データや最新の市場動向を効率的に入手できます。多くの機関が無料または低コストでサービスを提供し、現地での人脈作りもサポートしてくれます。また、他社の成功事例や失敗事例などの貴重な情報も得られます。
ただし、提供される情報は一般的な内容が中心で、業界特有の詳細データや競合分析などには限界があります。また、支援機関の担当者の経験や知識によって、情報の質にばらつきが生じることもあります。
3. 民間の調査会社を活用する
専門の調査会社は、高度な調査手法と現地ネットワークを駆使して、詳細な市場分析を提供します。競合企業の動向や消費者の購買行動など、具体的なデータに基づいた戦略立案が可能です。また、調査結果を基にした実践的なアドバイスも得られ、スムーズな市場参入を実現できます。
デメリットとしては、高額な費用が必要となることが挙げられます。また、調査会社の選定を誤ると、期待した質の情報が得られない可能性もあります。信頼できる調査会社を見つけるためには、事前の綿密な評価が必要です。
これらの調査方法は、必ずしも一つに限定する必要はありません。予算、時間、必要な情報の深さに応じて複数の方法を組み合わせることで、より効果的な市場調査が可能となります。
民間の調査会社へ委託を検討する際はこちらの記事も参考にしてください。
ドイツに進出した日系企業の事例3選

ドイツ市場での日系企業の成功事例を紹介します。これらの企業は、周到な市場調査と明確な戦略に基づいて、ドイツ市場での地位を確立しています。
- 富士フイルム
- パトライト株式会社
- 三星ダイヤモンド工業
ドイツに進出している日系企業の業種別内訳を見ると、商業、サービス業および物流関連の企業が全体の約50%を占めています。次いで企業向けサービス業と生産・加工業がそれぞれ約18%となっています。特に機械製造、自動車、自動車部品産業、エレクトロニクス、化学及び情報通信技術分野での進出が目立ちます。
日系企業は高い技術力と品質管理能力を活かし、ドイツ市場で確固たる地位を築いています。それぞれの成功要因を詳しく見ていきましょう。
1. 富士フイルム
富士フイルムは、写真フィルムで培った技術を医療分野へ展開し、見事な転換を遂げました。
同社は市場調査を通じて、ドイツの医療機器市場における品質重視の傾向と高齢化による需要増加を把握し、画像処理技術を活かした医療用診断機器で、着実にシェアを拡大しています。
現地の医療機関との密接な関係構築により、製品開発にユーザーの声を反映させる体制も整えています。
2. パトライト株式会社
産業用信号機器メーカーのパトライトは、ドイツのスマートファクトリー化の潮流を見据えた展開を行っています。
同社は現地調査を通じて、製造現場でのIoT化ニーズを早期に把握し、高品質な製品と迅速なカスタマーサポートを武器に、特に自動車産業や物流分野で高い評価を獲得しています。地域ごとの産業特性に合わせた営業戦略も成功の要因です。
3. 三星ダイヤモンド工業
切削工具メーカーの三星ダイヤモンド工業は、ドイツの製造業が求める高精度加工ニーズを的確に捉えています。徹底した市場調査により、自動車産業向けの特殊工具に対する需要を見出し、製品開発に活かしました。
現地企業とのパートナーシップ構築にも注力し、技術交流を通じた製品改良を継続的に行っています。
ドイツへの進出を考えるなら市場調査は必須

ドイツは EU最大の経済大国として、多くのビジネスチャンスを提供する魅力的な市場です。しかし、その成功のためには徹底的な市場調査と準備が不可欠です。
特に重要なのは、厳格な規制環境への対応、地域ごとの市場特性の把握、そして消費者の価値観理解です。これらの要素を十分に調査し、自社の強みを活かせる展開方法を検討することが重要です。
市場調査の方法は、自社調査、支援機関の活用、専門会社の利用など、状況に応じて最適な手法を選択できます。多くの日系企業の成功事例が示すように、周到な準備と現地ニーズへの的確な対応が、ドイツ市場での成功につながるのです。
ドイツの市場調査ならAXIA Marketing

ドイツ市場への進出を成功させるためには、現地に精通した専門家のサポートが不可欠です。AXIA Marketingは、豊富な実績と専門知識を持つコンサルタントが、お客様のビジネスに最適な市場調査サービスを提供します。
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参考文献
・ドイツにおける市場調査 – SIS International Research
・ドイツへ海外進出する日系企業とその理由 – MaJissuke