日本企業による海外進出の7つのメリットと5つのデメリット/対策
グローバル化が進む現代においては、多くの日本企業が海外に進出し、事業を展開しています。この流れは今後ますます加速し、海外で事業を行うことが当たり前になると考えられます。
そんな中、「多くの企業が海外に進出しているけど、具体的にどのようなメリットがあるのかわからない」「自社でも海外進出を検討しているが、リスクやデメリットにどう対処すればいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、日本企業が海外に進出するメリットとデメリットについて、わかりやすく解説していきます。
デメリットやリスクに対する対策も紹介しているため、ぜひ最後までお読みください。
日本企業が海外進出する7つのメリット
日本企業が海外に進出するメリットには様々なものが挙げられます。その中でも、特に大きなメリットとして、主に以下の7つが挙げられます。
【日本企業が海外に進出するメリット】
- 新たな販路・顧客を獲得できる
- 国内の人材不足を補える
- 新しい技術・知見を獲得できる
- リスクの分散につながる
- コストの削減につながる
- 人件費や原材料費、輸送費等
- 税制優遇措置を受けられる場合がある
- 評判や知名度が向上する
新たな販路・顧客を獲得できる
海外に進出することで新たな販路・顧客を獲得することができるチャンスが生まれます。日本国内の市場規模は、人口減少とともに縮小傾向にある中、新たな販売先として海外に着目している企業は年々増えています。
総務省統計局のデータによると、2023年10月時点で、日本の人口は13年連続で減少しています。この傾向は今後も続くと予想されており、現在約1億2,000万人いる人口が、2050年には9,515万人、2100年には4,771万人にまで減少する見込みとされています(総務省「我が国における総人口の長期的推移」)。加えて、日本の経済成長率も停滞気味となっており、2023年度の前年度比GDP成長率は0.8%にとどまっています(内閣府)。
このように日本国内のマーケットは今後ますます小さくなっていくと考えられ、国内だけをターゲットに事業を展開していては、大きな売上拡大を見込めないと言われているのです。
これに対し、海外では未開拓の市場も多く、特に発展途上国と呼ばれる地域は、人口も増加しており経済成長が著しい国も多いです。
現地企業と提携することで、その企業が持っている販路をそのまま活用して自社製品を広めたり、現地企業が有する顧客基盤に対して製品を販売することも可能になります。
国内の人材不足を補える
少子高齢化が進む日本では、労働力不足が深刻化しています。特に若者世代の人口減少により、残業時間の増加や後継者の不在など、様々な問題が生じています。
一方、海外市場では労働人口が豊富な国が多く、進出することで若年層や優秀な現地人材を活用することができるようになります。特に新興国では労働力が安価でありながら、教育水準の高い人材も多く、日本企業のグローバル競争力を支える大きなリソースとなるでしょう。
日本でも、トヨタや日産などの自動車メーカーを中心に、多くの企業が海外に工場を設立し、現地の労働者を雇用して製造を行っています。
新しい技術・知見を獲得できる
海外に進出することで、その国にしかない独自の知識やノウハウ、技術を吸収することができます。
例えば、先進国に進出することで、その国の最先端の技術や知見を獲得し、それを持ち帰って国内の事業に活かすこともできます。現地の高度な製造技術を導入して国内での生産性を高めたり、その国で成功しているマーケティング戦略を取り入れて国内の営業/販売力を強化したりすることが考えられます。
発展途上国に進出する場合でも、現地独特の文化や慣習に触れることで新たな視点が生まれ、それがビジネスのアイデアにつながることもあるでしょう。
リスクの分散につながる
事業を海外の複数の地域に展開することで、特定市場の不況や自然災害などのリスクに依存しない安定した経営基盤を構築することができます。さらに、異なる市場間での需要変動を補完し合うことで、長期的に安定成長を維持することも可能となります。
日本企業の多くは、海外の複数の地域に拠点を設けたり、店舗を開設しています。これにより、ある国で経済不況等により売れ行きが悪くなっても、他の国での売上によりこれをまかなうことができるようになるのです。
コストの削減につながる
海外進出は、あらゆる側面でコストの削減につながる場合があります。具体的には以下のようなコストを削減できる可能性があります。
- 人件費:現地の安価な労働力を活用することで人件費を削減することができる
- 原材料費:製品を製造するための原材料を現地調達することで、輸入する場合と比べて安価に必要な原材料を入手することができる
- 物流費:現地で製造したものをそのまま現地で販売することで、輸入・輸出する場合と比べて物流費を抑えることができる
ただし、海外進出には、現地法人の設立手続き費用、市場調査費用、人材の採用費用、各種規制への対応費用など様々なコストが発生するため、これら海外進出にかかるコストとのバランスを考慮して、慎重に検討する必要があります。
税制優遇措置を受けられる場合がある
多くの国・地域では、外国企業の誘致を目的として、法人税の減免や補助金制度を整備しています。
これらの制度をうまく活用することで、進出初期のコストを抑えつつ、収益性を高めることが可能となります。特に、経済特区など、特定地域においては優遇措置が充実しているため、進出場所を選定する際の一つの基準になるでしょう。
なお、海外の優遇制度は複雑な場合も多く、また、現地語でしかルールが規定されていない場合も多いため、自分たちだけでこれらの優遇制度を活用することが困難な場合も少なくありません。そのため、海外進出を支援しているコンサルティング会社・リサーチ会社や、JETROなどの公的機関に相談することをおすすめします。
評判や知名度が向上する
海外での成功は、企業の国際的な信頼性やブランド価値を高めることにもつながります。「グローバル企業」としてのステータスを得ることで、国内外での取引機会が増えるだけでなく、消費者や投資家からの信頼獲得にも役立つでしょう。
評判や知名度がどの程度上がるかは、どの国に進出するかによっても異なります。例えば、アパレルブランドにとっては、流行の発信地であるパリへの進出を果たすことが大きな意味を持ちます。パリの人々に受け入れられたという事実が、そのブランドの価値を大いに高めることにつながるのです。
また、東南アジアやアフリカなどの開発途上地域への進出は、営利的な側面だけでなく、その国の社会課題を解決するという側面を持ちます。例えば、アフリカで衛生用品を販売することで、販売による収益を得られるだけでなく、その国の衛生環境の改善に貢献することができます。このような取り組みは、対外的にも高い評価を受け、その企業の評判を高めることにつながるでしょう。
日本企業が海外進出する5つのデメリットと対策
日本企業による海外進出は大きなメリットをもたらす一方で、デメリットやリスクがあることも否定できません。海外進出に当たっては、進出のデメリットやリスクもしっかりと把握し、適切な対策を立てた上で臨むことが重要となります。
日本企業が海外に進出することのデメリットとして、主に以下の5つが挙げられます。それぞれについて、対策とともに分かりやすく説明していきます。
【日本企業が海外に進出するデメリット】
- 言語や文化の違いに対応する必要がある
- 海外事業に対応できる人材が必要となる
- 為替変動のリスクがある
- 治安・政変・自然災害等のおそれがある
- 現地の法規制により事業が制約されることがある
言語や文化の違いに対応する必要がある
言語や文化の違いという壁は、海外進出を進めるほぼ全ての企業が直面する課題といえるでしょう。特に、社内に英語などの外国語が堪能な人材がいない場合には、海外情報の調査や現地の人とのコミュニケーションが難しくなり、海外進出する上で大きな課題となります。
また、現地の文化をしっかりと理解しておかないと、現地の人の慣習にそぐわない事業を立ち上げてしまったり、場合によっては現地の人から反感を持たれる可能性もあります。例えば、パッケージや広告に記載された表現やイラストが現地のタブーに触れることもあります。
言語や文化の違いに対応するための具体的な対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 現地の文化に精通した現地スタッフを採用する
- 翻訳ツールや通訳者を活用する
- 現地の文化について、書籍やインターネット、現地インタビューなどを通じて理解を深める
海外事業に対応できる人材が必要となる
海外で事業を行うためには、海外事業に対応できる人材が必要となります。中小企業をはじめとする多くの企業は、社内にこのような人材を抱えていないことが多く、これが海外進出を行き詰らせる要因となっています。
また、海外事業に対応できる人材といっても、その国の言語が堪能な人、現地の文化・慣習に詳しい人、現地で事業を展開するための手続きや遵守すべき法規制に対応できる人など、求められる能力は様々です。そのため、自社においてはどのような能力を持つ人材が足りないのかを具体化し、その能力を持つ人材を見つけ出す必要があります。
人材不足を補うための具体的な対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 人材紹介会社等を通じて必要な人材を採用する
- 海外進出を支援する専門のコンサルティング会社等に依頼するなどして、足りないリソースを外注する
- 現地の企業と提携関係を結び、リソース不足を補う
- 社員教育を通じて、海外で通用する人材を育成する
為替変動のリスクがある
海外で事業を行う際には、為替変動リスクも考慮しなければなりません。現地企業との取引や現地での売上の回収などを行う場合に、為替レートによって最終的な利益が大きく変わり得ます。取引金額が大きくなるほど、その影響は大きくなるため、財務規模が小さい中小企業は特に注意が必要です。
また、発展途上国など、政治や経済が不安定な地域では、特に通貨の価値が変動しやすく、為替変動により大きな影響が生じる場合があります。そのため、海外進出の際には、その国の経済・政治状況や過去の為替相場の推移などを確認して、リスクの大きさを把握しておくことをおすすめします。
為替変動リスクに上手に対処するための具体的な対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 為替変動に備えて、多めに資金を見積もっておく
- 金融アドバイザーに助言を求める
- 為替予約などのリスクヘッジ手段を活用する
治安・政変・自然災害等のおそれがある
海外で事業を行う際には、治安や政権の変動、自然災害など、自社ではコントロールできない事由により、事業がダメージを受ける可能性があります。主なリスクとしては以下のようなものが挙げられます。
- 犯罪、暴動、内戦、テロなどの治安に関するリスク
- クーデターによる政権の交代、独裁者による恣意的な政策変更などの政治的なリスク
- 地震、台風、雷などの自然災害に関するリスク
- 感染症やウィルスなどの健康に対するリスク
これらのリスクは、進出先の国・地域によってその深刻さが異なるため、事前にしっかりと調査しておくことが重要となります。具体的な対策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 治安に関するリスクへの対策
- 現地の人やJETROなどの公的機関などから助言を受ける
- 外務省の海外安全ホームページでリアルタイムの治安情報を確認する
- なるべく安全な地区に拠点を設ける
- 政治的なリスクへの対策
- 政治的に不安定な地域への進出を避ける
- 自然災害に関するリスクへの対策
- 自然災害の少ない地域に拠点を設ける
- 事務所や工場などの建物に災害対策を施す
- 健康に対するリスクへの対策
- 事前に予防接種を受けておく
- 衛生環境を整える
海外進出には様々なリスクがありますが、リスクがあるからといって海外進出を断念するのではなく、リスクの大きさや内容を正しく把握し、適切な対策を採ることが重要です。どのような対策を採ればいいかわからない場合には、海外進出を支援する公的機関や民間会社に相談してみることをおすすめします。
現地の法規制により事業が制約されることがある
現地の法規制は、海外に進出する際に考慮すべき重要な要素の一つです。日本では当たり前に認められていることが、海外では規制されているなど、思わぬ法規制の罠にはまってしまうことも少なくありません。現地の法規制を事前に確認しないまま事業を開始してしまうと、知らないうちに規制に違反し、最悪の場合、撤退を余儀なくされることもあるでしょう。
また、法規制を遵守するために、許認可やライセンスの取得や特定の設備の導入が必要となる場合もあります。これらの対応には資金が必要となるため、法規制対応に必要となる資金をあらかじめ見積もっておくようにしましょう。
現地の法規制に対応するための具体的な対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 弁護士・会計士・税理士などの専門家に相談する
- JETROなどの公的機関が発行しているガイドラインなどを参考にする
- 現地企業のサポートを得て、必要な許認可等を取得する
日本企業による海外進出の成功事例3選
上述したようなデメリットやリスクに直面しながらも、しっかりとした対策によりこれらを乗り越え、海外進出で大きな成功を収めた日本企業が数多く存在します。今回は、その中でも特に参考になる事例を3つご紹介します。
- 【キューピー】入念な市場調査を経てマヨネーズを販売
- 【丸亀製麺】積極的に海外に出店
- 【クボタ】現地の農業に根ざした農業機械を提供
【キューピー】入念な市場調査を経てマヨネーズを販売
キューピーは、1982年にアメリカに進出し、それ以降、多くの国で、マヨネーズを販売しています。1987年にはタイ、1993年には中国への進出を果たしました。地域ごとのニーズをうまくとらえた製品設計やメニューの考案により、現地の人に受け入れられるマヨネーズを販売し、世界中の家庭に届けています。
キューピーが海外でマヨネーズを販売する際には、まずは輸出販売の形態で日本製のマヨネーズを販売し、売れ行きや現地の人々の反応を見つつ、現地製造に踏み切るというリスクの少ない方法を採用しています。現地で製造販売することで、現地の人々のニーズやトレンドの変化をリアルタイムでとらえ、それに応じて柔軟に製品をカスタマイズすることが可能となります。
また、海外でマヨネーズを販売するにあたっては、その国の市場調査を丹念に行いました。現地で好まれている味や食習慣、ライフスタイルなどを調査し、その国で受け入れられるようにマヨネーズのフレーバーをカスタマイズするなどの工夫をしたことが成功につながったのです。
なお、AXIA Marketingは、マレーシアでマヨネーズをはじめとする調味料の製造販売を行っているキユーピーマレーシア様の市場調査を支援いたしました。
詳しくは、こちらをご参照ください。
【丸亀製麺】積極的に海外に出店
トリドールホールディングスは、うどん専門飲食店「丸亀製麺」を海外でも積極的に展開しています。世界8か国と地域に257の店舗を展開し、「MARUGAME UDON」として広く定着しています。
丸亀製麵が海外でも受け入れられた理由として、本場の讃岐うどんの良さを保持しつつ、各地域の文化や食習慣に合わせた独自のメニューを展開したことにあります。それぞれの地域の人々が好む味や食生活を丹念に調査し、ローカライズしたことで、地元の人からも受け入れてもらうことに成功したのです。
例えば、インドネシアでは、現地で飲食店事業を手掛けるスリボガグループとタッグを組んで店舗を展開しました。スリボガグループのノウハウや知見を取り入れることで、うどん文化をインドネシアの人々に定着させました。インドネシアで人気の生唐辛子を薬味としたり、チリをまぶしたオリジナルのり天を提供するなど、ローカライズしたメニューを提供しています。
【クボタ】現地の農業に根ざした農業機械を提供
農業機械の製造メーカーとして有名なクボタは、世界中の国に進出し、その国独自の農業に根ざした農業機械の販売などの取り組みを展開しています。
クボタが、海外で農業機械を販売する際には、実際に現地の農家を視察し、その国の人々がどのような栽培法でどのような農作物を育てているかをしっかりと観察します。現地の農民にインタビューをすることで、その国の農業への理解・解像度を高め、その国に合った農業機械の開発に役立てているのです。その結果、海外でもクボタの農業機械は高い評価を獲得しています。
また、農業機械の販売だけでなく、イギリスにおいて農業のスマート化のためのソリューション提供を行ったり、シンガポールにおいて水の自給自足のための技術提供を行うなど、自社の技術力を活かした様々な支援・取り組みを行っています。
海外進出支援ならAXIA Marketing
AXIA Marketingでは、海外進出を検討している企業様に向けて、海外調査・進出準備をお手伝いしております。
世界中に計50万名規模の有識者ネットワークを有しており、公開情報では知ることのできない現地の深い情報まで徹底的にリサーチ・分析し、海外進出の検討をサポートします。
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