食品メーカーが海外進出する5つの方法|注意点も紹介
和食文化の国際的な人気の高まりを受け、多くの食品メーカーが海外に進出しています。世界中にカップヌードルを広めた日清食品や、世界中に店舗を展開しているヤマザキなどはその典型例です。
一方で、「食品メーカーが海外に進出する方法がわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、日本の食品メーカーが海外進出する方法について、それぞれのメリットやデメリットとともに分かりやすく紹介していきます。
食品メーカーが海外進出で失敗しないための注意点も紹介しているため、ぜひ最後までお読みください。
食品メーカーによる海外進出が進んでいる3つの理由
大手食品メーカーを中心に、多くの日本の食品メーカーが、海外に進出しています。その背景には様々な要因が考えられますが、主に以下の3つの理由が考えられます。
【食品メーカーによる海外進出が進んでいる3つの理由】
- 国内の市場規模が縮小しているから
- 新たな販路拡大や知見獲得に繋がるから
- 和食文化が国際的に浸透しているから
国内の市場規模が縮小しているから
多くの国内食品メーカーが海外に進出している理由として最も多く挙げられるのが、日本の市場規模が縮小しているからというものです。
総務省統計局のデータによると、2023年10月時点で、日本の人口は13年連続で減少しています。この傾向は今後も続くと予想されており、現在約1億2,000万人いる人口が、2050年には9,515万人、2100年には4,771万人にまで減少する見込みとされています(総務省「我が国における総人口の長期的推移」)。加えて、日本の経済成長率も停滞気味となっており、2023年度の前年度比GDP成長率は0.8%にとどまっています(内閣府)。
このように日本国内のマーケットは今後ますます小さくなっていくと考えられます。特に、食品のようなToC向けの製品は、人口がそのまま売上ポテンシャルにつながります。そのため、多くの食品メーカーは、人口が今後ますます減少していくであろう日本だけをターゲットに事業を展開していては、大きな売上拡大を見込めないと考えているのでしょう。
新たな販路拡大や知見獲得に繋がるから
食品メーカーが海外に進出することで新たな販路を開拓したり、現地ならではの知見や技術を獲得できるチャンスがあります。
現地企業と提携することで、その企業が持っている販路をそのまま活用して自社の食品を広めることも可能です。
また、現地独自の食材や調味料と自社製品を組み合わせることで新たな味を開発したり、その国で成功しているマーケティング戦略を取り入れて国内の販売力を強化するなど、現地の知見や技術を活用して、自社の事業を強化することも可能となります。
和食文化が国際的に浸透しているから
近年、日本食は世界中の国で受け入れられ、広く浸透しています。「スシ(Sushi)」や「サシミ(Sashimi)」「テンプラ(Tenpura)」などが世界標準語化しているように、和食の健康的でおいしいイメ―ジが世界中で認識され需要が高まっています。
実際、多くの日本レストランが海外で店舗を展開していることからも、海外における和食の人気が拡大していることは明らかです。参考までに、農林水産省の調査によると、海外における日本食レストランの数は、2023年10月時点でおよそ18万7000店に上るとのことです(農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について」)。
このような状況は、日本の食品メーカーにとって、自社製品を世界に広める大きなチャンスといえるでしょう。
食品メーカーが海外進出する6つの方法
食品メーカーが海外進出をする方法には様々な形態がありますが、特に以下の6つの方法のいずれかが採られることが多いです。それぞれの方法について、メリット・デメリットとともにわかりやすく解説していきます。
【食品メーカーが海外進出する主な方法】
- 現地法人を設立する
- 支店を設立する
- 販売代理店/商社を経由する
- 現地企業に委託して生産する
- フランチャイズ契約を締結する
- 越境ECを活用する
現地法人を設立する
現地で独立した法人格を持つ会社を設立し、自社が100%出資する場合(独資)や、現地企業と合弁会社を設立する場合(合資)があります。この形態を採る場合には、法人税などの税制や雇用関連規制、食品業にかかる特殊な規制など、現地法の正確な理解と遵守に基づいた事業運営が求められます。
完全に自社で運営を管理するため、現地の手続きや法規制に対する深い理解と人員・資金が必要となります。そのため、大企業など大手のメーカーによって採用されるケースが多いです。
メリット
- 法人としての地位が確立され、現地の顧客や取引先からの信頼を得やすい
- 現地人の好みやニーズに応じた独自の食品を提供しやすくなるなど、柔軟なビジネス戦略の遂行が可能となる
- 自社のノウハウが流出するリスクが低い
デメリット
- 初期費用や運営費、現地スタッフの採用費用など立ち上げに多くのコストがかかる
- 法務、税務、労務など、様々な観点から規制を遵守する必要が生じ、責任が重くなる
支店を設立する
日本本社の一部門として海外に支店を設立し、事業活動を行う形態です。この形態の下では、支店は法人格を持たず、日本本社の直接的な統制下で運営されることになります。
そのため、現地での独立性は低いですが、日本の経営方針をダイレクトに反映しやすいという側面もあります。
メリット
- 現地法人設立と比べ、設立や運営にかかるコスト・手間が少ない
- 日本本社が直接支店を管理でき、統制・コントロールがしやすい
- 現地法人設立よりも手続きが簡単で、早期に事業を開始できる
デメリット
- 現地法人に比べて、顧客やパートナーからの独立性や信頼感が劣る場合がある
- 支店収益が日本本社の課税対象となるなど、税制面で不利になる可能性がある
販売代理店/商社を経由する
自社が直接拠点を設けず、現地の販売代理店や商社に販売活動を委託する形態です。現地市場にすでにネットワークを持つ代理店の力を借りることで、低コストかつ迅速に自社の食品を広めることができます。
メリット
- 自社で現地拠点を設置する必要がなく、初期投資やカントリーリスクを抑えられる
- すでに現地でコネクションや実績を有する販売代理店/商社の販路や顧客基盤を利用できる
- 現地パートナーが市場の動向や規制に精通しているため、短期間で市場参入が可能
デメリット
- マージンを代理店に支払う必要があるため、利益率が低下する
- 海外事業に関するノウハウは蓄積されにくい
- 自社の方針が代理店に十分伝わらないと、正しいブランドイメージの浸透や職に対する自社の考え方の伝達が困難となる
現地企業に委託して生産する
現地のOEM(Original Equipment Manufacturer)企業に食料製品の生産を委託し、製造コストを削減する形態です。製品は自社ブランドとして販売されることが一般的です。
メリット
- 現地の安価な労働力や資源を活用できるため、製造コストを大幅にカットできる
- 自社で工場を建設する必要がないため、設備投資費用を節約できる
- 新商品の設計・企画など本質的な業務に集中できるようになる
デメリット
- 委託先企業の品質を徹底管理するのが難しい
- 委託先が技術やノウハウを模倣して競合製品を生産するなど、自社の技術・ノウハウが流出するリスクがある
フランチャイズ契約を締結する
現地の加盟店に対してブランド、ノウハウ、運営方法を提供し、現地での事業展開を委託する形態です。国内でもコンビニエンスストアで採用されている形態として有名です。
ロイヤルティ収入を得ながら、ブランドを世界的に展開する手法として広く用いられます。
メリット
- 加盟店が初期投資や運営費を負担するため費用を抑えられる
- 加盟店ネットワークを活用して効率よく市場浸透が可能
- ロイヤルティにより継続的な収益を得ることができる
デメリット
- 加盟店の運営が不適切だと、ブランド価値が損なわれるリスクがある
- 加盟店との契約や監督にリソースを割く必要がある
越境ECを活用する
自社のECサイトやAmazon、アリババなどのグローバルなECプラットフォームを通じて、物理的な拠点を持たずに海外の顧客に直接商品を販売する形態です。
特に、資金力や人員・設備に乏しい中小規模の食品メーカーが、低コストで海外展開を試みる際に効果的です。
メリット
- 物理的な拠点や大規模な投資が不要であり、小規模な事業者でも参入しやすい
- 地理的な制約がなく、世界中の消費者にリーチすることが可能
- プラットフォームに登録すれば、スピーディに販売を開始できる
デメリット
- 輸送費用や関税により商品価格が割高になってしまう
- 世界中の企業が同じプラットフォーム上で競争するため、価格競争が起きやすい
- 海外発行のクレジットカードによる詐欺等のリスクに対処する必要がある
食品メーカーが海外進出で失敗しないための5つの注意点
食品メーカーが海外進出で失敗しないためには、いくつかのポイントに注意する必要があります。その中でも特に重要なポイントとして、以下の5つが挙げられます。
【食品メーカーが海外進出で失敗しないための注意点】
- 市場調査をしっかりと行う
- 現地の食文化や宗教に配慮する
- 現地の法規制や安全基準を遵守する
- 信頼できる現地パートナーを探す
- 販売先を確保しておく
市場調査をしっかりと行う
食品メーカーが海外進出するにあたっては、事前にしっかりと市場調査を行っておくことが重要です。調査項目は多岐にわたりますが、一般的には、市場規模・成長率、人口、競合の存在、サプライチェーン、現地の文化・食習慣・宗教、法規制・税制等が挙げられます。これらを漏らさずに調べておくことが、海外事業の失敗を避けるために不可欠です。
食品メーカーが海外進出に失敗するよくあるパターンとして、以下のようなものが挙げられます。
- 提供した食品がその国の人々の好みや宗教上の戒律に合わず、ほとんど売れなかった
- パッケージや広告において、現地のタブーに反する文言が使用され、現地の人々の反感をかってしまった
- 思わぬ法規制や制度の罠に直面して思い通りのビジネスを展開できなかった
これらの失敗は、事前に入念な市場調査を行うことで回避することができ、その意味でも市場調査は非常に重要なのです。
市場調査の初期段階では、外務省やJETROなどの公的機関が発行する資料や、書籍・インターネット等などの公開情報の収集から開始することから始めましょう。同業の食品メーカーですでに海外に進出している企業があれば、ベンチマーク調査することも有効です。
その後、本格的に進出検討を進める場合には、非公開情報も含めた調査や客観的な視点からの分析が必要となるため、専門の調査会社・コンサルティング会社に委託することをおすすめします。
現地の食文化や宗教に配慮する
食品メーカーにとって、食文化や宗教上のルールへの配慮は、事業の成否を分ける重要な要素となります。進出先の食文化や宗教上/慣習上のタブーなどを理解し、文化的に受け入れられるような食品を提供することが不可欠となります。
例えば、進出先の国によっては、宗教により牛肉・豚肉やアルコールなど一部の飲食物の摂取が禁止されている場合もあります。そのため、宗教上のタブーなどを把握し、現地の宗教や慣習に合わせて原材料から見直しをしていく必要があります。例えば、森永乳業は、イスラム市場に向けて、ハラルやコーシャ認証を取得した食品を販売しています。
また、国によって、人々の好みが分かれるため、この点に対する配慮も不可欠です。例えば、大手お菓子メーカーのカルビーは、中国市場向けに、四川料理で人気の麻辣味を再現したポテトチップスを販売しています。現地の人の好みを的確にとらえるためには、デスクトップだけでなく、実際に現地に赴いて現場を視察することが重要です。
また、注意すべきなのは味や食材だけではありません。食品のパッケージに記載されているメッセージやイラストにも注意する必要があります。何気なく載せたイラストが、その国の宗教上特別な意味を持っていたり、現地人が不快に感じる表現が使われてしまうことも少なくありません。そのような事態を避けるために、あらかじめパッケージのデザインを現地のスタッフにチェックさせておくと良いでしょう。
現地の法規制や安全基準を遵守する
食品の輸出入や販売には、国や地域ごとに様々な規制が設けられており、これを遵守しない場合、販売停止や罰則のリスクが生じます。現地規制を正確に理解し、コンプライアンスを遵守した形で、食品の製造・販売を行うよう注意する必要があります。
食品に関する規制としては、以下のようなものが挙げられます。
- 特定の文言や成分を必ず明記しなければならないなどラベル表示に関する規制
- 特定の食材を輸出する場合に認証の取得を必要とする規制
- 食品工場における各種安全基準や製造方法に関する制限
また、食品に関する法規制は政府の方針によって変わることもあるため、進出後も定期的に法規制を確認していく必要があります。法令違反のリスクを避けるため、現地の政府機関や商工会議所とも連携し、常に最新の法令事情を把握しておくようにしましょう。
信頼できる現地パートナーを探す
信頼できる現地パートナーを探すことも、海外進出の成功に欠かせない要素です。海外に進出している多くの食品メーカーは、現地の企業と合弁で会社を設立したり、現地企業と提携関係を結んだことによって、事業拡大に成功しています。
現地パートナーと関係を構築できれば、そのパートナーが持っている販路を活用したり、顧客を紹介してもらったり、現地の人しか知らないような食文化や食材に関する貴重な情報を共有してもらったりと、様々なメリットを得られるでしょう。
また、現地パートナーと関係を結ぶためには、自分たちも現地パートナーに対してどのようなメリットを提供できるかを考えておく必要があります。現地では定着していない独自のノウハウ・調理法、日本食のブランド価値など、自社が現地パートナーに対してどのような価値を与えられるかを考えておくようにしましょう。
販売先を確保しておく
製品の需要があっても、販売先(流通チャネル)が整備されていないと、収益を上げることは困難です。本格的な進出前に、確固たる販路を確保し、効率的な物流体制を整えることが重要となります。
例えば、現地の大手小売業者とパートナー契約を締結して、既存の顧客に自社の製品を効率的に販売してもらったり、販売代理店や商社経由で大口顧客にまとめて販売したりすることが考えられます。
また、近年では、AmazonやアリババなどのECプラットフォームを活用して、EC経由で販売する方法も主流になっています。いわゆる越境ECという形態であり、海外拠点等の物理的な設備を設けずに全世界に向けて販売できるというメリットがあります。
食品メーカーによる海外進出の事例3選
日本の食品メーカーの多くが海外進出していますが、その中でも特に参考になる事例を3つご紹介します。
- 【ヤマザキ】ランチパックなどのパン製品を海外に販売
- 【ミツカン】アジア・北米・欧州へと、3体制で海外展開に臨む
- 【日清製粉】環太平洋を中心に事業展開
【ヤマザキ】ランチパックなどのパン製品を海外に販売
パンのメーカーの代名詞ともいえるヤマザキは、東南アジアや欧米を中心に海外進出を果たしています。日本でも人気のランチパックをはじめとするヤマザキの人気商品は海外でも多くの消費者に購入されています。1981年に香港ヤマザキを設立して以降、タイ、台湾、シンガポールなどにおいて工場を建設し現地生産と店舗展開を行っています。
ヤマザキが海外に進出するにあたり、特にこだわった点の一つが、品質です。原材料を現地調達しながらも、日本と同じ品質を維持すべく、サプライヤーを厳選しました。
また、味付けも地元で好まれる食材を盛り込むなど、現地の人々に好まれる形でアレンジするなど、工夫を重ねています。いくつかの国では、ベーカリー店もオープンするなど、日本のパン食を海外に広めることに成功しています。
【ミツカン】アジア・北米・欧州へと、3体制で海外展開に臨む
調味料や納豆などの食料品を製造販売するミツカンは、2022年の海外売上割合が59.7%に到達するなど、海外展開に力を入れています。日本・アジア、北米、ヨーロッパという3つのエリアごとに異なる事業運営体制を構築し、それぞれの部門が独自の責任の下で、事業展開を行っています。
北米ではパスタソース、ヨーロッパではスィートピクルスなど地域に応じて様々な食品のブランドを展開しています。各国・地域における食文化を重視し、現地の人に親しまれるブランドづくりを心がけたことにより、自社の商品を世界中に広めることに成功しました。
例えばアメリカでは、パスタソースがピザの味付けやスープのベースなど様々な目的で利用されていることを踏まえて、汎用性のあるパスタソースを発売しています。
【日清製粉】環太平洋を中心に事業展開
日清製粉は、環太平洋地域を中心にグローバルに事業を展開しています。現時点で、海外の製造拠点数は35に達しており、北米、アジア、ヨーロッパの11か国に工場を建設しています。海外での売上高は全体の3割のおよそ2,600億円に達し、外国人従業員数も4,000人近く抱えています。
特に注目すべきは、自社事業の中核となる小麦の最大の輸入元であるアメリカ、カナダ、オーストラリアそれぞれに生産拠点を設けていることです。これにより、小麦に関する情報をいち早く得ることができるようになりました。
また、タイやベトナムではパスタソース、アメリカやトルコではパスタなど、それぞれの国の原材料に合わせた商品を展開することで、現地調達を容易にし、生産コストを下げる工夫をしています。
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参考文献
・人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在) – 総務省統計局
・海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について – 農林水産省
・乳酸菌類なら「BB536-F」:森永乳業株式会社 – 健康美容EXPO
・ニュースリリース 『ポテトチップス 麻辣味』 – カルビー
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