海外進出の7つの形態とは?選び方や3つの注意点も紹介
海外進出を検討している企業にとって、どのような進出形態を採用するかは重要なポイントとなります。誤った選択をすると、事業自体の失敗に直結するものであるため、慎重な判断が必要です。
一方で、「そもそもどのような進出形態があるのかわからない」「複数の進出形態からどれを選べばよいかわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、日本企業が採りうる海外進出の7つの形態について、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、わかりやすく紹介していきます。
進出形態を選ぶ際の注意点も解説していますので、ぜひ最後までお読みください。
日本企業による海外進出の7つの形態
日本企業による海外進出の形態には様々なものがありますが、代表的な形態は以下の7つです。それぞれについて、メリット・デメリットをわかりやすく紹介していきます。
【日本企業による海外進出の主要な形態】
- 現地法人を設立する
- 支店を設立する
- 駐在事務所を設置する
- 販売代理店/商社を経由する
- 現地企業に委託して生産する
- フランチャイズ契約を締結する
- 越境ECを活用する
現地法人を設立する
現地で独立した法人格を持つ会社を設立し、自社が100%出資する場合(独資)や、現地企業と合弁会社を設立する場合(合資)があります。この形態を採る場合には、法人税などの税制や雇用関連規制など、現地法の正確な理解と遵守に基づいた事業運営が求められます。
完全に自社で運営を管理するため、現地の手続きや法規制に対する深い理解と人員・資金が必要となります。そのため、大企業によって採用されるケースが多いです。
メリット
- 法人としての地位が確立され、現地の顧客や取引先からの信頼を得やすい
- 現地ニーズに応じた独自の製品やサービスを提供しやすくなるなど、柔軟な事業展開が可能となる
- 自社の技術やノウハウが流出するリスクが低い
デメリット
- 初期費用や運営費、現地スタッフの採用費用など立ち上げに多くのコストがかかる
- 法務、税務、労務など、様々な観点から規制を遵守する必要が生じ、責任が重くなる
- 国や地域によっては外資規制がかかる場合がある
支店を設立する
日本本社の一部門として海外に支店を設立し、事業活動を行う形態です。この形態の下では、支店は法人格を持たず、日本本社の直接的な統制下で運営されることになります。
そのため、現地での独立性は低いですが、日本の経営方針をダイレクトに反映しやすいという側面もあります。
メリット
- 現地法人設立と比べ、設立や運営にかかるコスト・手間が少ない
- 日本本社が直接支店を管理でき、統制・コントロールがしやすい
- 現地法人設立よりも手続きが簡単で、早期に事業を開始できる
デメリット
- 現地法人に比べて、顧客やパートナーからの独立性や信頼感が劣る場合がある
- 支店収益が日本本社の課税対象となるなど、税制面で不利になる可能性がある
駐在事務所を設置する
現地での市場調査や情報収集を目的とした拠点として事務所を設置するという進出形態です。営業や販売などの収益活動は基本的に許可されず、進出準備段階の活動に特化した形態と位置付けられます。
進出のリスクを抑えながら、現地の市場や文化・慣習の理解を深めるのに適しています。
メリット
- 法人や支店の設立に比べてコストとリスクが低い
- 現地に駐在することでしか知ることのできない文化・慣習やトレンドを把握できる
- 設置にかかる時間や手間が比較的少ない
デメリット
- 直接には営業や販売活動が行えないため、収益につながる事業拡大のためには次のステップが必要となる
- 実際に市場に参入するまでのスピードは相対的に遅くなる
販売代理店/商社を経由する
自社が直接拠点を設けず、現地の販売代理店や商社に販売活動を委託する形態です。現地市場にすでにネットワークを持つ代理店の力を借りることで、低コストかつ迅速に商品やサービスを広めることができます。
メリット
- 自社で現地拠点を設置する必要がなく、初期投資やカントリーリスクを抑えられる
- すでに現地でコネクションや実績を有する販売代理店/商社の販路や顧客基盤を利用できる
- 現地パートナーが市場の動向や規制に精通しているため、短期間で市場参入が可能
デメリット
- マージンを代理店に支払う必要があるため、利益率が低下する
- 海外事業に関するノウハウは蓄積されにくい
- 自社の方針が代理店に十分伝わらないと、正しいブランドイメージの浸透が困難となる
現地企業に委託して生産する
現地のOEM(Original Equipment Manufacturer)企業に製品の生産を委託し、製造コストを削減する形態です。
製品は自社ブランドとして販売されることが一般的で、特に家電やアパレル業界でよく利用されます。
メリット
- 現地の安価な労働力や資源を活用できるため、製造コストを大幅にカットできる
- 自社で工場を建設する必要がないため、設備投資費用を節約できる
- 製品の設計・企画など本質的な業務に集中できるようになる
デメリット
- 委託先企業の品質を徹底管理するのが難しい
- 委託先が技術やノウハウを模倣して競合製品を生産するなど、自社の技術・ノウハウが流出するリスクがある
フランチャイズ契約を締結する
現地の加盟店に対してブランド、ノウハウ、運営方法を提供し、現地での事業展開を委託する形態です。国内でもコンビニエンスストアで採用されている形態として有名です。
ロイヤルティ収入を得ながら、ブランドを世界的に展開する手法として広く用いられます。
メリット
- 加盟店が初期投資や運営費を負担するため費用を抑えられる
- 加盟店ネットワークを活用して効率よく市場浸透が可能
- ロイヤルティにより継続的な収益を得ることができる
デメリット
- 加盟店の運営が不適切だと、ブランド価値が損なわれるリスクがある
- 加盟店との契約や監督にリソースを割く必要がある
越境ECを活用する
自社のECサイトやAmazon、アリババなどのグローバルなECプラットフォームを通じて、物理的な拠点を持たずに海外の顧客に直接商品を販売する形態です。
特に、資金力や人員・設備に乏しい中小企業や個人事業主が、低コストで海外展開を試みる際に効果的です。
メリット
- 物理的な拠点や大規模な投資が不要であり、小規模な事業者でも参入しやすい
- 地理的な制約がなく、世界中の消費者にリーチすることが可能
- プラットフォームに登録すれば、スピーディに販売を開始できる
デメリット
- 輸送費用や関税により商品価格が割高になってしまう
- 世界中の企業が同じプラットフォーム上で競争するため、価格競争が起きやすい
- 海外発行のクレジットカードによる詐欺等のリスクに対処する必要がある
自社に合った進出形態を選ぶための3つのポイント
海外進出の形態を選ぶ際には、各形態のメリット・デメリットを比較検討し、自社の目的や現状に合った最適な形態を選ぶことが重要です。
自社に合った進出形態を選ぶ際に意識すべきポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 海外進出の目的を明確化する
- 自社の業種/事業内容とマッチしているかを考える
- 自社の規模やリソースとの兼ね合いで実現可能かを確認する
海外進出の目的を明確化する
海外進出の形態を選ぶ際には、まず、自社が海外に進出する目的を明確にすることが重要です。この目的によって、適切な進出形態が大きく変わるためです。
例えば、現地で新しい顧客を開拓し、売上を増やすことが目的の場合、現地法人設立や代理店利用が適しています。これに対し、現地で収益活動を行うことができない駐在事務所を設置しても、かかる目的は達成できません。
一方で、将来本格的に海外進出をする前段階として、現地の実情を把握しておきたい場合には、比較的低コストで簡単に設置できる駐在事務所の形態が適しています。
また、生産コストを抑えることが目的なのであれば、現地企業への委託生産(OEM)が効果的な場合もあります。自社ブランドを効率的に浸透させることを目指すのであれば、フランチャイズ形態が有効な場合もあるでしょう。
目的を明確化しないまま、単に他社のやり方を真似して進出形態を選ぶと、自社の海外進出の目的を達成できず、時間と費用を無駄にしてしまうことにもなりかねないので注意しましょう。
自社の業種/事業内容とマッチしているかを考える
自社の業種や事業内容が選んだ進出形態とマッチしているかを確認することも重要です。業種/事業内容によって、適切な進出形態が異なる場合も多々あります。
例えば、製造業において、製品を大量生産して輸出する業態の場合、現地の委託生産(OEM)や販売代理店経由での販売が適しているでしょう。
一方で、顧客との接点を重視する小売業の場合には、現地法人の設立やフランチャイズ形態などが効果的と考えられます。
ITやソフトウェアのように物理的な配送が不要な場合は、越境ECや支店設立で十分な場合も多いです。
進出形態が事業内容に適していないと、運営が非効率になったり、期待する成果が得られないことがあります。例えば、製造業が越境ECだけに頼ると、物流やカスタマーサポートの課題が増大する可能性があります。自社の業種や事業内容を踏まえた適切な形態を選ぶようにしましょう。
自社の規模やリソースとの兼ね合いで実現可能かを確認する
進出形態を選ぶ際には、自社の資金、人材、ノウハウ、時間といったリソースを考慮することも重要です。自社の規模やリソースを考えず、無理のある形態を選ぶと、進出後の運営が困難になり、計画倒れに終わってしまいます。
例えば、初期投資を抑えたい中小企業の場合、代理店利用や越境ECなどの低コスト・低リスクな形態からスタートするのが良いでしょう。
一方で、十分な資金力と人材がある大企業の場合は、現地法人設立や支店設立など、より高い成果を狙える形態を選ぶことも可能かもしれません。
海外進出に必要な専門人材が不足している場合は、現地コンサルタントの活用や一部業務のアウトソーシングを検討することも有効です。
自社リソースを無視して大規模な形態を選ぶと、初期費用や運営コストが過剰になり、最悪の場合、撤退を余儀なくされる場合もあるため、注意しましょう。
海外進出で失敗しないための注意点チェックリスト
海外進出で失敗しないためには適切な進出形態を選択することも重要ですが、それ以外にも、いくつかのポイントに注意する必要があります。以下では、海外進出で失敗しないための注意点をチェックリスト形式でまとめました。
【海外進出で失敗しないための注意点チェックリスト】
それぞれについて、わかりやすく簡潔に説明していきます。
①入念な市場調査を行う
進出先の市場ニーズ、競合状況、ターゲット顧客層を調査し、自社の製品・サービスが受け入れられるかを確認します。どんなに質の高い製品であっても、進出先の国の人々の生活や好みに合わなければ、市場拡大を図ることはできません。入念な市場調査を行うことは海外進出成功のための必須条件です。
②現地の法規制を把握する
現地特有のビジネスに関する法律、輸出入規制、税制を理解し、適切な手続きを行います。法規制を無視すると罰金や事業停止のリスクがあるため、弁護士などの専門家にも相談しながら丁寧に対応していくことが求められます。
③現地文化やマナーに配慮する
現地の宗教、慣習、ビジネスマナーを尊重し、現地の顧客やビジネスパートナーとの信頼を築くよう心がけましょう。
④現地パートナーやスタッフを慎重に選定する
信頼できる現地パートナーやスタッフを採用し、ローカルな知識を活用します。提携先が信頼できるかが分からないときは、信用調査などのバックグラウンド調査を行うことも有効です。
⑤初期投資を過大にしない
事業の成否が不明な段階での過剰な投資を避け、小規模から始めてリスクを抑えるようにしましょう。例えば、試験店舗を開設して小さい市場から販売を開始し、テスト結果を踏まえて本格参入に踏み出すなど、段階的なアプローチが有効となります。
⑥為替リスクを管理する
進出先の国の通貨価値の変動に備え、適切な為替リスク管理を行います。為替予約やヘッジ手法を活用することも検討しましょう。特に開発途上国は、経済変動リスクも大きいため注意が必要です。
⑦サプライチェーンを確立する
現地での物流や調達網を整備し、安定した供給体制を構築します。複数の調達先を確保することで供給リスクを分散することも重要です。
⑧商品やサービスのローカライズを行う
現地の顧客ニーズや文化に合わせて商品・サービスをカスタマイズしていきます。例えば、食品メーカーであれば、現地の食材を取り入れたり、広告塔に現地の有名人を起用するなどが考えられます。
⑨現地スタッフの教育を行う
自社の価値観やサービス水準を共有するために、現地スタッフへの教育を徹底します。日本基準のサービスを現地スタッフにトレーニングすることにより、現地での差別化を計ることが可能となります。
⑩現地コミュニティへの貢献を重視する
単に現地で収益を挙げるだけでなく、現地社会に貢献し、地域からの信頼と支持を得る努力をしましょう。特に、開発途上国においては、環境保護や教育支援などのCSR活動を行うことで、現地の人々に寄り添いながら事業を展開することが長期的な事業安定化のために重要となります。
⑪継続的なモニタリングを行う
進出後も市場の動向や顧客ニーズを定期的に確認し、戦略を見直します。特に、開発途上国では、経済情勢や政情が頻繁に変わるため、定期的に市場調査を行い、改善していくことが求められます。
⑫政治的リスクを認識する
進出先の政情不安や政策変更に備え、リスクを最小化するための対策を検討しておきましょう。複数国に進出することでリスク分散を図るのも有効です。
海外進出での失敗を避けるためには、市場理解、法規制の遵守、文化への配慮を中心に、各種リスクに対応した戦略を準備することが不可欠です。これらを総合的に実践することで、海外進出の成功確率を大幅に高めることができるでしょう。
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