ブラジル進出における市場調査の重要性とは?調査方法やメリットを徹底解説
中南米の大国ブラジル。豊富な資源やBRICSとしての期待から、外資企業の進出先として根強い人気がある新興国です。
ブラジルは世界最大の日本人居住国でもあり、日系企業との親和性が非常に期待できる国でもあります。
今回はブラジルの市場環境や市場調査の方法について解説します。
- ブラジルの基本情報
- ブラジル進出において市場調査が重要な理由
- ブラジル市場の調査方法とメリット・デメリット
- ブラジルにおけるビジネス環境
- ブラジルに進出した日系企業3選
ブラジルの基本情報
ブラジルは南アメリカ大陸に位置し、日本の約22倍の広大な国土を有しています。熱帯雨林を含む多様な自然環境と、多彩な文化が共存する国です。
有力新興国とされるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一つであり、その成長速度から、将来の世界経済の中心として期待を集めています。
2023年時点で人口は約2億人を超えており、今後さらなる成長が見込まれています。
概要
面積 | 851.2万平方キロメートル |
人口 | 約2億1,531万人 |
首都 | ブラジリア |
民族 | 欧州系(約44%)、アフリカ系(約10%)、東洋系(約0.4%)、混血(約45%)、先住民(約0.6%) |
言語 | ポルトガル語 |
宗教 | カトリック約65%、プロテスタント約22%、無宗教8% |
主要産業 | 製造業、鉱業(鉄鉱石他)、農牧業(砂糖、オレンジ、コーヒー、大豆他) |
経済
ブラジルは南米最大の経済規模を誇り、GDPランキングでは世界第11位に位置しています。
主要産業は農業、鉱業、エネルギー産業で、特に大豆や鉄鉱石の生産・輸出は世界でもトップクラスです。
国内市場は中間所得層の増加による消費市場の拡大によって成長しています。ブラジル経済は今後も緩やかな成長が期待されており、日本企業にとってまだまだ魅力的な市場と言えるでしょう。
国内格差
国内格差はブラジルに進出する際に、考慮すべき最も重要な要素です。
ブラジルは地域によって経済発展の度合いが大きく異なります。首都ブラジリアやブラジル最大の都市リオデジャネイロ、サンパウロなどの南部・南東部に比べて、北部や北東部はインフラ整備が圧倒的に遅れているのです。
インフラ整備の遅れは地域に深刻な教育・財政格差を生み出しており、国民の約60%が平均所得の1/2に達していないというデータも存在します。
進出エリアを決める際は、格差の背景や現状を十分に理解したうえで、慎重に検討する必要があるでしょう。
ブラジルと日本の関係は
ブラジルは世界最大の日系人居住地です。1908年に日本から最初の移民が到着して以来、100年間で約26万人の日本人がブラジルに渡りました。
日系ブラジル人は非常に勤勉で、社会的地位の高い職業につくことも少なくありません。ブラジル国内でも、日系ブラジル人は国の文化発展に大きく貢献したとして、非常に高い評価を得ています。
トヨタ自動車や日本航空、パナソニックなどの大手日系企業がブラジル市場で受け入れられたのも、日系ブラジル人が作り上げた「日本の信用」のおかげといっても過言ではありません。
ブラジル進出において市場調査が重要な理由
経済成長や天然資源など、魅力が多いブラジルですが進出にあたっては、いくつかの注意点があります。
どの要素も進出後のビジネスに大きな影響を与える可能性がありますので、事前に市場調査でしっかりと把握しておくことをおすすめします。
【市場調査が必要な3つの理由】
- 繋がりが重要な「アミーゴ社会」
- 治安面では注意が必要
- ブラジルコストの存在
繋がりが重要な「アミーゴ社会」
ブラジルにおけるビジネスでは信頼関係が非常に重要視される、いわゆる「アミーゴ(親友)社会」です。
いくらよいビジネスをしていても「アミーゴ」の関係になっていないと契約されない、なんていうことはよくあります。ブラジルでは「ビジネスは単なる取引ではなく、深い人間関係の上に成り立つ」という考え方が浸透しているのです。
そのため日本企業がブラジル市場に進出するには、現地パートナーとの信頼構築が欠かせません。市場調査を通じて現地の文化やビジネス慣習を理解することは、ブラジル進出を成功させる第一歩といってもよいでしょう。
治安面では注意が必要
ブラジルの治安は、進出先を選定する際の大きな課題です。
サンパウロやリオデジャネイロなどの大都市では特に犯罪率が高く、拠点を設ける際には注意が必要です。
ブラジルでは、銃器の所持が認められています。2023年には規制が強化されましたが、銃を使った犯罪は後を絶ちません。
市場調査で現地の治安情報を把握し、安全なエリアでの事業展開を計画することが求められます。またセキュリティ面での投資も、視野に入れる必要があるでしょう。
日本から社員を派遣する際は、不測の事態への行動や、日常生活における注意喚起など、徹底したリスクマネジメントをすべきです。
ブラジルコストの存在
ブラジルには「ブラジルコスト」と呼ばれる、特有のコスト構造が存在します。参入を検討する段階で自社に関わるコストをしっかりと洗い出しておく必要があります。
【主なブラジルコスト】
- 複雑な税制
- 物流コスト
- 労務コスト
複雑な税制
ブラジルの税制は非常に複雑で、各州や自治体ごとに異なる税率が設定されています。現地のビジネスパーソンですら完璧に理解している人はほとんどいないと言われるほどです。
税負担は非常に重く、GDPに占める税金の割合は約37%にも上ります。(日本は30%未満)
税制自体の変更も頻繁に発生するため、企業にとって非常に重い負担となるでしょう。
少しでも税制の理解を深め、現地の税務処理を任せられるパートナーを探すためにも、ブラジル進出において市場調査は不可欠です。
物流コスト
日本製品を輸出する際は、地球の裏側まで輸送しなければならないため、莫大な費用が発生します。
そのうえ広大な国土を持つブラジルでは、国内の物流コストも重要な課題です。
鉄道輸送網が未発達のため、国内はトラック輸送に依存しています。
しかし輸送インフラが整備されていない地域も多く、エリアによっては輸送コストが非常に高額になることがあります。
ビジネスの形態によっては物流コストが、大きな制約となることを認識しておきましょう。
労務コスト
ブラジルの労働関係の法律は過度に労働者寄りで、権利が強く保護されています。
労務関係の訴訟件数は日本の1000倍以上となっており、労働者側の訴訟率が高い状況です。
ブラジルでは一度設けた福利厚生はどんな理由であれ、撤廃が受け入れられないルールがあります。
また定年制度が無いため、労働者の新陳代謝を図ることが日本以上に困難です。
市場調査を通じて現地の労働市場の実情を把握し、適切な人材戦略を立てることが重要です。
ブラジル市場の調査方法とメリット・デメリット
ブラジルで円滑にビジネスを始めるには、事前の市場調査が欠かせないことが十分に理解できたと思います。
実際に調査を進めるにはどうすれば良いのでしょうか。
市場調査の3つの方法について、それぞれメリットとデメリットをご紹介します。
【市場調査の3つの方法】
- 自社で調査する
- 支援機関を活用する
- 民間の調査会社を活用する
自社で調査する
自社で市場調査を行う場合、自社のリソースを活用するためコストの削減が可能です。調査を通じてノウハウが蓄積されるため、長期的なメリットもあります。しかし時間と労力がかかるため、専門的な知識が不足している場合は時間がかかることがあります。
自社で調査するメリット
自社で調査すれば、コストを安く抑えることができるうえに、自社のニーズに合わせた細かな調査が可能です。内部での情報共有がスムーズで、社内にノウハウが蓄積されるため、将来的な事業拡大に役立ちます。
自社で調査するデメリット
時間と労力がかかるため、スピード感を持った対応が難しいという問題点があります。また専門的な知識が不足していると、調査結果の精度が低くなるリスクがあります。
支援機関を活用する
公的な支援機関を活用することで、信頼性の高いデータを入手しやすくなります。手続きが煩雑な場合もありますが、専門的なサポートを受けられる点が魅力です。
【公的機関の一例】
- ジェトロ(日本貿易振興機構)
- 中小企業基盤整備機構
- 商工会議所
- 政府系金融機関
- 地方自治体
支援機関を活用するメリット
信頼性の高いデータが得られること、専門的なアドバイスが受けられることが主なメリットです。政府の補助金や助成金の活用により、コストを抑えることが可能です。
支援機関を活用するデメリット
手続きが煩雑な場合があり、結果が得られるまでに時間がかかることがあります。また公的機関の情報は一般的すぎる内容である場合があり、特定のビジネスに合わせた詳細な情報が入手しにくいこともあります。
民間の調査会社を活用する
民間の市場調査会社を利用することで、迅速かつ専門的な調査を実施することができます。コストがかかる一方で、高度なデータ分析が可能です。
民間の調査会社へ委託を検討する際はこちらの記事も参考にしてください。
民間の調査会社を活用するメリット
現地の専門知識を持つ調査会社がデータを提供するため、精度の高い情報が得られます。また、迅速にデータを収集でき、戦略的な意思決定をサポートします。
民間の調査会社を活用するデメリット
コストが高額になることがあり、調査の内容に満足できない場合のリスクもあります。契約内容や調査前の取り決めでは、慎重な判断が必要です。
ブラジルにおけるビジネス環境
豊富な天然資源
農産物や地下資源はブラジル経済の重要な柱です。
コーヒー豆や大豆、鶏肉などの農産物は輸出品のメインとなっています。日本でもブラジル産の食料品を目にすることは多いのではないでしょうか。
地下資源においても、鉄鉱石の輸出はオーストラリアに次いで世界2位、産油国としても世界9位の資源大国です。
豊富な資源を活かしてビジネスができる点は、ブラジル進出における大きな魅力といえます。
【ブラジルの主な農産物】
- サトウキビ
- 大豆
- とうもろこし
- オレンジ
- コーヒー豆
- 生乳
- 鶏肉
- 牛肉
【ブラジルの主な鉱物資源】
- 鉄
- 鋼
- ニッケル
- ボーキサイト(アルミの原料)
- マンガン
- ニオブ(ステンレスの原料)
再生可能エネルギー大国
再生可能エネルギーの生産においてもブラジルは世界的な注目を集めています。ブラジルの再生可能エネルギー比率は、なんと全体の半分以上を占め、発電設備容量においては世界第3位を誇ります。水力発電や風力発電に関連するビジネスを求める企業にとって、ブラジルは非常に大きな市場です。
【ブラジルの主な再生可能エネルギー】
- 大型水力
- 風力
- バイオマス
- 太陽光
急成長するデジタル市場
デジタル市場の調査は、進出企業にとって今後より一層重要な要素となるでしょう。
ブラジルではインターネット利用者数が増加しており、デジタル市場も急成長しています。多くの消費者がスマートフォンでショッピングや金融サービスを利用します。そのためデジタル決済の普及率が高い点もブラジルの特徴の一つです。
一方でデジタルニーズの高まりに伴い、サイバーセキュリティの重要性が高まっています。サイバーリスクを抑えるためにも、現地のデジタル市場をしっかりと調査し、万全なセキュリティ体制を構築すべきです。
ブラジルに進出した日系企業3選
急速な発展を遂げているブラジルで、日本企業はどのようにビジネスを展開しているのでしょうか。
今回は新進気鋭のスタートアップと、日本でも有名な老舗企業2社の進出事例を紹介します。
【ブラジルに進出した日系企業3選】
- Googleクラウドパートナー企業「クラウドエース」
- 日本の味をそのまま提供「ゼンショー」
- ブラジル進出の老舗「ヤクルト」
Googleクラウドパートナー企業「クラウドエース」
ブラジルではスタートアップ業界が急速に発展しており、2023年時点でユニコーン企業数は16社、ランキングでは世界9位です。
そんな中、23年にサンパウロに現地法人を設立したスタートアップが「クラウドエース」です。クラウドエースはグーグルクラウドの導入支援・運用保守を行っており、主に現地の日系企業を中心にシェアを伸ばしています。
膨大な人口とデジタル市場の成長を見越して、ブラジルに進出した事例です。
日本の味をそのまま提供「ゼンショー」
ゼンショーは「日本の味をそのまま提供」をモットーに、現地法人であるゼンショー・ド・ブラジルを2008年に設立。2010年にサンパウロに「すき屋」を出店し、現在はブラジル国内で27店舗を展開しています。
肉料理が主流のブラジルでは牛丼という選択肢が受け入れられやすいうえ、牛肉自体の流通も盛んなので、原材料の仕入れにも困りません。
日本の味を忠実に再現しつつ、現地の食材を活用することでコストを抑え、広い顧客層に受け入れられました。
ブラジル進出の老舗「ヤクルト」
1966年にブラジルに進出したヤクルトは、ブラジルの日系企業の中でも老舗です。
日本と同じく「ヤクルトレディ」が販売を行う手法はブラジルでも広く受け入れられており、順調に販路を拡大しました。
またヤクルトは、ビジネスだけでなく文化振興にも貢献しており、現地の野球施設や野球アカデミーを設立することによって、国民から厚い信頼を得ています。
ブラジル進出において市場調査は不可欠
豊富な資源と人口から、日本企業の進出先として非常に魅力的なブラジルですが、リスクも多く存在します。
ブラジルで長期的にビジネスを成功させるには、ブラジルコストをはじめとするリスクを把握したうえで、進出計画を立てる必要があります。
今回はブラジルの市場調査に役立つ情報をご紹介しました。
- ブラジルの基本情報
- ブラジル進出において市場調査が重要な理由
- ブラジル市場の調査方法とメリット・デメリット
- ブラジルにおけるビジネス環境
- ブラジルに進出した日系企業3選
この記事が貴社のブラジル市場調査のお役に立つことを願っております。
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参考文献
・ブラジル基礎データー外務省
・ブラジルってどんな国?現状と支援活動―PLAN INTERNATIONAL
・日系ブラジル人ーWikipedia
・ポルトガル語(ブラジル)通訳のOCiETe|通訳依頼時の注意点を解説ーOCiETe通訳
・【2024年最新】ブラジルの治安は?危険な場所や注意点を解説ーNEWT
・【ブラジル編】現地でのビジネスは「ブラジル・コスト」との果てなき戦いー就職ジャーナル
・【特集 世界各国の税制度】ブラジルには56種類もの税金がある?ーDigima~出島~
・ブラジル向け輸送サービスーJAPAN TRUST
・ブラジル 日本の労働慣習常識を捨てよ!―ジェトロ
・海外市場調査の基本は?費用相場など徹底解説―BeeCruise株式会社
・新興国通貨の基礎知識~ブラジルー公益財団法人 国際通貨研究所
・【世界環境ジャーニー・ブラジル】再生可能エネルギー大国であるブラジルの現状ー株式会社アップルツリー
・急成長するブラジルのデジタル市場|南米最大の経済と海外企業の機会ー株式会社kaicotoba
・2020年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)(2020年12月) | 調査レポート – 国・地域別に見るージェトロ
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・ブラジルで活躍する日系企業の今(21)=安全かつ美味で手軽な日本食提供のゼンショー・ド・ブラジル社ーブラジル日報
・海外で成功したブラジルの老舗日系企業「ヤクルト」ーソーテックス・アドバンテッジ