金田大樹

記事の監修者

金田大樹

AXIA Marketing代表取締役

リサーチ会社を活用した経営判断を、日本企業の常識にしていくことがモットー。

鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅から大手調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。

インドネシアは人口約2.8億人を抱える東南アジア最大の経済圏として、多くの外国企業が注目する投資先です。しかし、進出にあたっては外資規制(外国投資規制)の理解が欠かせません。外資の参入を制限する業種や条件が存在し、事前に把握しておかないと、事業許可が得られないケースもあります。

本記事では、最新の規制緩和の動向からポジティブリスト制度の概要、外資規制をクリアする方法まで詳しく解説します。

インドネシアの外資規制とは

インドネシアの外資規制とは?

インドネシアの外資規制とは、外国企業や個人が同国で事業活動を行う際に適用される投資制限や条件を定めた法制度のことです。外国資本の流入を促進しつつ、国内産業の保護や雇用の確保を目的として設けられています。

インドネシア政府はこれまでネガティブリストと呼ばれる外資参入制限リストを採用していましたが、2021年のオムニバス法の施行によりポジティブリスト制度へと移行しました。これにより、多くの業種で外資規制が緩和され、100%外資による企業設立が可能な分野も拡大しています。

ただし、依然として戦略的・公共性の高い産業分野では制限が残っており、事業分野によっては現地資本との合弁や特定の許可取得が求められます。そのため、進出前に最新の外資規制内容を正確に把握することが極めて重要です。

インドネシアにおける外資規制の概要

インドネシアにおける外資規制の概要

インドネシアで外国資本による事業展開を行う際、最も基本かつ重要なのが外資規制の枠組みを理解することです。現在、インドネシアではポジティブリスト制度が中心的な制度として運用され、事業ごとに外資参入が許可されるか・どの程度許されるかが定められています。

また、外国人投資家の定義や、事業分類も明文化されており、これらのルールを把握しないまま進出を進めると許可取得でつまずくリスクがあります。本節では、ポジティブリストの仕組み、外国人投資家の定義、事業分類の枠組みという三つの視点から、外資規制の全体像をわかりやすく整理します。

  • ポジティブリストの仕組み
  • 「外国人投資家」の定義
  • 4つの事業分類

ポジティブリストの仕組み

インドネシアにおけるポジティブリストは、2021年に制定された大統領令に基づき、従来のネガティブリスト制度を置き換える形で導入されました。すべての事業分野を原則として外資参入可能とする方向性を打ち出しつつ、例外的に閉鎖分野や条件付き分野を設定しています。

つまり、リストに記載されていない事業は自動的に参入可能と見なされ、記載されているかどうかが規制の基準になる仕組みです。大統領令の改正を経て、このポジティブリスト制度はより柔軟性を持ち、外国投資家に対して参入障壁を低くする方向で運用が進んでいます。

ポジティブリストでは、各事業分野に応じて外資割合制限、許可申請の条件、地元中小企業との提携義務といった条件が定められ、さらに優先分野と呼ばれる特定産業には税制・非課税インセンティブが付与されるケースもあります。これにより、インドネシア政府は外国資本を誘致しながら、国益や雇用、技術移転といった政策目的とのバランスを図っています。

このポジティブリスト制度は、外国投資家にとってどの業種に参入でき、どこに制限があるかを明確化するガイドラインとなる一方、リストの更新や解釈変更が随時行われるため、最新の条文と解釈をチェックすることが不可欠です。

「外国人投資家」の定義

インドネシアの外資規制を理解する際に知っておくべき基礎が、外国人投資家の定義です。ポジティブリスト制度下では、事業を営む企業がどんな形で外国資本企業と見なされるかが重要なポイントになります。

一般的には、資本金出資や株式保有を通じて、インドネシア国外の法⼈または個人が参画している企業が外国人投資家に該当します。また、PMA形態での設立が求められ、出資比率・許可申請・報告義務といった規制対応が必要になります。外国投資家は、しばしば最低資本金要件や出資者の国籍情報の開示義務を負うケースがあります。これらの定義や要件を正確に把握しておかないと、投資許可申請で不備と判断され、認可が遅延または却下されることもあり得ます。

さらに、ポジティブリストの一部事業区分では、外国投資家として認定されるための追加条件が付されることもあります。進出を検討する企業は、自社が外国人投資家に該当するかどうか、またその定義に関連する条件を専門家と確認しておくことが重要です。

4つの事業分類

インドネシアの外資規制におけるポジティブリスト制度では、事業分野を4つのカテゴリーに分類し、それぞれに異なる投資条件や制限を設けています。

まず1つ目は優先分野で、政府が国の成長戦略上重要と位置づける産業です。製造業、再生可能エネルギー、インフラ、医療、観光などがこれに含まれ、外資の参入を積極的に奨励しています。これらの事業では、税制優遇や土地利用の簡素化、輸入関税の減免といったインセンティブを受けられる場合があります。

2つ目は条件付き分野で、外資の参入が認められるものの、一定の条件が課される分野です。例えば外資の所有比率上限が定められていたり、現地パートナーとの合弁が義務づけられるケースがあります。通信、保険、運輸、教育などが代表例で、国益や雇用維持を目的に制約が設けられています。

3つ目は協同組合・中小企業との提携義務分野です。これは国内中小企業や協同組合の保護・育成を目的とした仕組みで、外国企業が単独で進出できず、現地企業との提携を条件に事業許可が与えられます。農業や食品加工など、地域密着型の事業に多く見られる分類です。

最後に4つ目が完全自由参入分野で、外資・内資を問わず100%出資での進出が可能な分野です。多くのサービス業や製造業がこれに該当し、近年の規制緩和で最も広がっている領域でもあります。

こうした4分類を理解することは、インドネシアでの投資計画を立てるうえで不可欠であり、どの業種にどんな制限があるかを事前に把握することが、スムーズな進出の第一歩となります。

知っておきたいその他の重要規制

知っておきたいその他の重要規制

インドネシアで事業を行う際には、外資規制のほかにも、土地所有や資本金に関するルールを正確に理解しておくことが欠かせません。

これらの規制は、外国企業がどのような形で現地に拠点を構え、どの規模で事業を展開できるかを左右する重要な要素です。特に土地の所有は国の安全保障や主権に関わる分野として厳格に制限されており、資本金は事業許可や法人登記の条件にも直結します。

ここでは、インドネシア進出前に必ず押さえておきたい土地所有に関する規制と資本金に関する規制について詳しく解説します。

  • 土地所有に関する規制
  • 資本金に関する規制

土地所有に関する規制

インドネシアでは、外国企業や外国人個人が土地を所有することは原則として認められていません。土地は国に帰属する資産とされており、外国人や外資系企業は使用権や建設権などの限定的な権利形態を通じて土地を利用できます。

特にHGBは、外国資本による法人が事業用地を取得する際に最も一般的な方法で、通常30年間の使用が認められ、延長申請により最長80年まで利用可能です。

ただし、使用権や建設権の付与には、土地の用途が事業目的に適合していることや、地方自治体からの許可が必要です。また、HGBの土地は第三者への譲渡や担保設定も一定条件下で可能ですが、所有権ではないため自由度は制限されます。

さらに、特定地域(農地、森林保護区、国防関連地域など)では外国資本の関与が制限されることもあり、用途や立地ごとに慎重な確認が必要です。

このように、土地取得はインドネシアでの事業展開における最初のハードルの一つであり、信頼できる現地パートナーや法務専門家を通じて、権利形態と契約内容を明確にしておくことが極めて重要です。

資本金に関する規制

インドネシアで外資企業を設立する場合、資本金に関する要件は最も注意すべきポイントの一つです。現地企業と異なり、外国資本を含む法人は最低投資額と最低払込資本金の基準が定められています。

通常、外資企業の最低投資総額は約10億ルピア(約1,000万円)以上とされ、そのうちの25%(約2億5,000万ルピア)を払込資本金として登記時に支払う必要があります。

この基準は業種や事業規模によって変動する場合がありますが、いずれにしても小規模ビジネスレベルの資本では外資法人としての設立は難しい点が特徴です。また、資本金の規模は単なる設立条件にとどまらず、ビザ発給、銀行口座開設、各種許認可の申請時にも参照される重要な指標となります。資本金が実態に見合っていない場合、監査や再審査の対象となる可能性もあるため、十分な計画と準備が求められます。

さらに、外資企業が現地中小企業とのジョイントベンチャーを組む場合、出資比率に応じて資本金要件が異なるため、合弁契約を締結する際には事前に明確な資本構成を定義しておくことが肝要です。

このように、資本金規制は単なる数字上の要件ではなく、事業の信頼性や継続性を左右するファクターであり、設立前に必ず専門家の助言を受けることが推奨されます。

インドネシアの外資規制をクリアする2つの方法

インドネシアの外資規制をクリアする2つの方法

インドネシアでは外資規制が依然として複雑であり、外国企業がスムーズに進出するためには、法的な枠組みを正しく理解したうえで適切な手続きを踏む必要があります。特に外資による事業展開を行う場合、進出形態の選択と投資奨励制度の活用が重要な鍵を握ります。外資企業として法人を設立する方法は、独自の事業運営を可能にし、柔軟な経営を実現できます。

一方で、インドネシア投資調整庁が運営する投資奨励制度を活用すれば、税制優遇や手続き簡略化など多くの恩恵を受けることが可能です。ここでは、外資規制をクリアしつつ現地での成功を実現するための2つの具体的な方法について詳しく解説します。

  • 外資法人を設立する
  • BKPM(投資調整庁)の投資奨励制度を利用する

外資法人を設立する

インドネシアで外資企業として事業を行う際の最も一般的な方法が、外資法人の設立です。外資法人は、外国資本が出資して設立する有限責任会社であり、原則として外国人が株式の一部または全てを保有できる法人形態です。

インドネシアでは、BKPMへの申請・認可を経て設立されるのが基本で、資本金要件や事業区分に応じた登録が必要です。外資法人の大きなメリットは、現地法人として事業を自立的に運営できる点です。販売、製造、輸出入、サービス提供など幅広い業種での活動が可能となり、現地銀行口座の開設や税務登録、雇用契約の締結など、国内企業と同等の権利を得られます。

一方で、設立までには複雑な手続きが伴い、特定業種では出資比率制限や合弁義務が課される場合もあります。そのため、進出を検討する際には、自社が行う事業がポジティブリストにおけるどのカテゴリーに属するのかを確認し、必要に応じてインドネシア法務省やBKPMの指導を受けることが重要です。

外資法人の設立は、確かにコストと時間を要しますが、長期的な市場拡大やブランド定着を目指す企業にとって、最も安定した進出形態といえます。

BKPM(投資調整庁)の投資奨励制度を利用する

もう一つの有効な方法が、インドネシア投資調整庁が提供する投資奨励制度を活用することです。インドネシア投資調整庁は、国内外の投資を促進するための中核機関であり、外国企業がインドネシアで事業を展開する際の許認可・支援を一括して行うワンストップサービスを提供しています。

特にBKPMが運営する投資奨励制度では、特定分野において、外資企業に対して税制優遇や関税免除、土地利用許可の簡素化などのインセンティブが与えられます。これにより、投資コストを大幅に削減しつつ、事業立ち上げをスピーディに進めることが可能です。

また、BKPMの支援を受けることで、政府関連機関との調整や各種ライセンス申請もスムーズに行えるため、現地の複雑な行政手続きを最小限に抑えられます。特に近年はオンライン申請システム「OSS」を通じて手続きの透明化と迅速化が進んでおり、外資企業の参入ハードルは着実に下がっています。

このように、BKPMの制度を活用することで、外資規制を実質的にクリアしながら、政府のサポートを受けて事業展開を加速できます。進出前に自社の業種が優遇対象に該当するか確認し、戦略的に利用することが成功への近道となります。

BKPM(投資調整庁)とは?

BKPM(投資調整庁)とは?

BKPMは、インドネシア政府のもとで国内外の投資を統括・促進する役割を担う主要機関です。外国企業が現地で事業を始める際には、会社設立、投資許可、事業ライセンスなどの手続きをBKPMを通じて行うのが一般的です。

従来は省庁ごとに分散していた手続きが、BKPMによってワンストップサービスとして一元管理されるようになり、投資環境が大きく改善しました。外資規制が複雑なインドネシアにおいて、BKPMは外国企業にとって最も重要な窓口であり、最新の投資情報の提供から優遇制度の案内まで、進出のあらゆる段階でサポートを受けられます。

BKPMから受けられる主なメリット

BKPMを通じて投資を行う最大のメリットは、インドネシアでの事業設立・運営に関する手続きを効率的かつ透明に進められる点です。

まず、BKPMは会社設立や投資許可、税務登録、ライセンス取得など、従来複数の省庁に分かれていた手続きをワンストップシステムで一括管理しています。これにより、外国企業は手続きにかかる時間とコストを大幅に削減できます。また、オンライン申請システム「OSS」を通じて申請状況をリアルタイムで確認できるため、煩雑な行政プロセスを最小限に抑えることが可能です。

さらに、BKPMを通じて投資奨励対象分野として認定されれば、法人税の軽減や輸入関税の免除、土地利用権の延長、外国人労働者のビザ発給緩和など、さまざまな優遇措置を受けられます。特に製造業、再生可能エネルギー、インフラ整備、観光開発といった分野では、長期的な税制優遇が適用されるケースもあります。

また、BKPMは現地自治体や政府関連機関との調整も代行してくれるため、外国企業が抱えやすい手続き上の不透明さや言語の壁といったリスクを軽減できます。結果として、投資判断から事業開始までのスピードが格段に向上し、安定的な市場参入を実現できるのがBKPM活用の大きな魅力です。

外資規制に関する注意点・ポイント

外資規制に関する注意点・ポイント

インドネシアは投資環境の改善が進む一方で、外資に対する規制や行政手続きが依然として複雑な国です。法制度の改正や業種ごとの出資制限など、状況が頻繁に変化するため、進出時には最新の情報を正確に把握し、リスクを最小限に抑える戦略が求められます。

また、許認可取得には複数の機関との調整が必要となり、時間と労力がかかるケースも少なくありません。したがって、インドネシアでの外資事業を成功させるには、信頼できる現地パートナーや専門家と連携し、法改正や制度の変更に柔軟に対応する体制を整えることが不可欠です。

ここでは、外資規制をスムーズに乗り越えるための3つの重要ポイントを解説します。

  • 信頼できる専門家・パートナーを見つける
  • 法規制の変更等の最新の情報を常に確認する
  • 許認可取得のプロセスは複雑で時間がかかることを想定する

信頼できる専門家・パートナーを見つける

インドネシアでの外資事業を成功させるためには、信頼できる現地パートナーや法務・会計の専門家の存在が欠かせません。外資規制や投資許可の手続きは、現地の法律や行政慣行を熟知していなければスムーズに進めることが難しく、誤った申請や手続きの遅延によって計画全体が停滞するリスクがあります。

現地の弁護士事務所、コンサルティング会社、会計士、または外資支援を専門とする日系コンサルなどを活用することで、制度上の落とし穴を避け、法的リスクを低減できます。さらに、現地パートナーはビジネス慣習や人脈、地方行政との関係性にも精通しており、プロジェクト推進において重要な役割を果たします。

ライセンス取得や土地使用権の交渉など、地域レベルでの調整が必要な場合には、現地ネットワークを持つパートナーの協力が成功の鍵になります。信頼関係を築きながら、透明性のある契約を結ぶことが、トラブルを回避し安定した事業運営を実現する第一歩です。

法規制の変更等の最新の情報を常に確認する

インドネシアの投資関連法規は頻繁に改正される傾向があり、特にオムニバス法(雇用創出法)施行以降、外資参入条件や優遇措置の対象分野が流動的に変化しています。そのため、外資企業は設立後も常に最新の法制度や行政通達を確認し、変更が自社の事業にどんな影響を与えるかを分析する必要があります。

情報収集の手段としては、JETROやBKPMの公式発表、現地の法律事務所からのニュースレター、業界団体のレポートなどを活用するのが効果的です。また、規制緩和の一方で、特定業種では外資比率の上限やローカル企業との協業義務が新たに導入されるケースもあるため、規制緩和=全業種が自由化と誤解しないよう注意が必要です。

定期的に契約内容や投資スキームを見直し、必要に応じて専門家に相談することで、突発的な法改正リスクにも柔軟に対応できます。最新情報のモニタリングは、リスク管理だけでなく、優遇制度のチャンスを逃さないための戦略でもあります。

許認可取得のプロセスは複雑で時間がかかることを想定する

インドネシアでは、事業を開始するまでに必要な許認可手続きが多岐にわたり、外資企業の場合はさらに複雑化する傾向があります。会社設立、投資登録、税務申請、営業許可、環境許可、土地利用許可など、複数の行政機関を経由する必要があり、それぞれの審査期間も長期化しがちです。

BKPMのワンストップサービス導入により手続きの簡素化が進んでいるとはいえ、依然として申請内容の修正や追加資料の提出を求められるケースは多く、全体で数か月〜半年を要することもあります。特に外資100%出資の場合、事業内容や資本金の規模によって追加審査が必要になることもあり、スケジュールの余裕を持って進行することが重要です。

現地行政は地域によって対応スピードや運用ルールが異なるため、地方政府との連携や、現地代理人によるサポート体制を整えておくと安心です。許認可取得は、単なる手続きではなく信頼構築のプロセスと捉え、計画的かつ丁寧に進めることが、長期的な成功につながります。

インドネシア海外進出支援や市場調査依頼ならAXIA Marketing

インドネシア海外進出支援や市場調査依頼ならAXIA Marketing

インドネシアの外資規制は年々緩和されつつありますが、依然として業種ごとの制限や複雑な行政手続きが存在します。進出を検討する際は、最新の法制度やポジティブリストの内容を把握し、自社の事業がどの分類に該当するのかを正確に確認することが重要です。さらに、BKPMの制度や優遇措置を活用することで、コスト削減や手続きの簡略化も可能になります。信頼できる現地パートナーと連携し、法改正や許認可の動向に対応できる体制を整えることが、成功への第一歩です。

インドネシア進出を検討する企業は、AXIA Marketingの専門支援を活用し、戦略的かつ確実な海外展開を実現しましょう。

参考文献

Copy Link

Share on

Share on X Share on X Share on Facebook > Share on Facebook >