金田大樹

記事の監修者

金田大樹

AXIA Marketing代表取締役

リサーチ会社を活用した経営判断を、日本企業の常識にしていくことがモットー。

鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅から大手調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。

化粧品業界は年々市場規模を拡大しており、美容意識の高まりやSNSの普及を背景に異業種からの新規参入も活発化しています。しかし、競争が激しく、消費者ニーズも多様化する中で、単に良い商品を作るだけでは成功できません。

本記事では、化粧品の新規事業開発を成功に導くための6つのポイントを詳しく解説します。市場ニーズの把握からブランド構築、販売戦略、OEMパートナー選定まで、実践的なステップを通じて、化粧品ビジネスを軌道に乗せるための具体的なポイントを紹介します。

化粧品業界の現状と新規参入の動向

化粧品業界の現状と新規参入の動向

日本の化粧品業界は、2025年時点で3兆円を超える巨大市場に成長しており、国内外の競争が激化しています。従来は大手化粧品メーカーが中心でしたが、近年では食品・医薬・ITなど異業種からの参入が急増。背景にはSNSやECの発達により、中小企業や個人ブランドでも低コストで市場に参入できる環境が整ったことがあります。

また、サステナブルやクリーンビューティーなど、新しい価値観を取り入れたブランドが台頭しており、消費者のライフスタイルや価値観の多様化に対応できるかが成功の鍵となっています。

異業種からの参入が増えている理由

化粧品市場に異業種が続々と参入している理由の一つは、ブランド拡張と新たな収益源の確保にあります。例えば、製薬会社は自社の研究開発技術を活かして機能性スキンケアを展開し、食品メーカーは健康志向や内外美容の視点からサプリメント型コスメを投入しています。

さらに、SNSマーケティングの普及によって広告費を抑えながらブランド認知を高めることが可能になった点も追い風です。OEM・ODMメーカーの充実により、開発リソースが限られる企業でも短期間で商品化できる環境が整い、D2Cモデルの浸透が異業種参入を後押ししています。

化粧品の新規事業開発を進める5つのステップ

化粧品の新規事業開発を進める5つのステップ

化粧品の新規事業を成功させるためには、感覚や勘に頼らず戦略的なプロセスを踏むことが重要です。ここでは、コンセプト設計から販売・プロモーションまでの5つのステップを順を追って解説します。

  • コンセプト設計とターゲット設定
  • 商品企画・開発
  • 製造(OEM/ODM選定)
  • 販売戦略立案とチャネル選定
  • プロモーション・広告宣伝

コンセプト設計とターゲット設定

新規化粧品ブランドの立ち上げにおいて最初に行うべきは、「誰に・どんな価値を届けるのか」を明確にするコンセプト設計とターゲット設定です。

年齢層、性別、ライフスタイル、肌悩みなどを細かく分析し、想定顧客像(ペルソナ)を設定します。そのうえで、「自然派」「高機能」「時短ケア」など、競合との差別化要素を明確に打ち出すことが重要です。ブランドの世界観やストーリーが一貫していれば、SNSでの拡散力や顧客の共感を得やすくなります。

この段階で曖昧さを残すと後の開発・販売戦略にズレが生じるため、丁寧な市場調査とヒアリングが不可欠です。

商品企画・開発

コンセプトが固まったら、それを具体的な商品に落とし込むフェーズです。トレンドや季節要因、ターゲット層の嗜好を踏まえ、テクスチャー・香り・成分・容器デザインなどを企画します。

また、機能性化粧品であればエビデンスを裏付ける試験体制の検討も欠かせません。差別化を図るためには、単なる流行成分の配合ではなく、ブランド理念との一貫性や持続可能性(サステナビリティ)を意識した開発が求められます。

製品開発段階でのユーザーテストやフィードバックを反映させることは、リピート率の高い製品づくりにつながります。

製造(OEM/ODM選定)

化粧品事業を新規で始める際、多くの企業が活用するのがOEM・ODMメーカーです。OEMは自社企画・設計を外部工場に委託する形態、ODMは開発から製造までを一括で依頼できる形態です。

選定時には「品質」「納期」「小ロット対応」「製造実績」「対応力」など、複数の観点から比較検討しましょう。また、薬機法対応や成分表示、パッケージ表記の確認など、法的リスクにも注意が必要です。

信頼できるパートナーを選ぶと安定した供給体制を構築でき、長期的なブランド成長につながります。OEM先を決める前に、試作や小規模生産を行い品質を確認することも成功の鍵です。

販売戦略立案とチャネル選定

商品が完成したら、どの販売チャネルで顧客に届けるかを明確にする必要があります。化粧品はドラッグストア・百貨店・ECサイト・自社D2Cなど多様な販売ルートがあり、それぞれに強みとコスト構造があります。

新規ブランドの場合、初期コストを抑えつつ顧客データを蓄積できるEC販売から始めるケースが多いです。チャネル選定と並行して、価格設定や販促施策も戦略的に設計することが求められます。例えば、限定キャンペーンやサブスクリプションモデルの導入により、リピート顧客を確保しやすくなります。

プロモーション・広告宣伝

最後のステップは、ブランドの認知を広げるプロモーション活動です。SNS(Instagram、TikTok、YouTube等)を活用したインフルエンサー施策やUGCの促進は、若年層への訴求に効果的です。

また、PRイベントや体験キャンペーンを通じて、リアルな使用感や信頼性を訴求しましょう。広告費をかけるだけでなく、顧客が共感して語りたくなるストーリー設計を行うことで、ブランドのファン層が自然に拡大します。

継続的に効果測定を行い、データに基づいて施策を最適化することで、安定した売上拡大につながります。

化粧品の新規事業開発を成功させる6つのポイント

化粧品の新規事業開発を成功させる6つのポイント

化粧品の新規事業を成功させるためには、商品力だけでなく戦略的な視点と継続的な改善が欠かせません。ここでは、市場分析からブランド構築、販売戦略、製造パートナー選びに至るまで、化粧品ビジネスを軌道に乗せるための6つの成功ポイントを紹介します。

  • 市場ニーズやトレンドを把握する
  • 独自性のあるブランドコンセプトを作る
  • ターゲット顧客のニーズに合った商品を作る
  • ターゲット顧客に適した販売戦略を策定する
  • 信頼できるOEM/ODMパートナーを見つける
  • 小ロットから始めてテストマーケティングを行う

市場ニーズやトレンドを把握する

化粧品市場は変化のスピードが非常に速く、流行や価値観の移り変わりに敏感です。まずは国内外の市場データやSNS上のトレンドを分析し、消費者が求めている要素を把握することが重要です。

例えば、近年では「クリーンビューティー」「ジェンダーニュートラル」「サステナブル」などのキーワードが注目されています。単に人気成分を追うのではなく、社会背景や文化的変化を踏まえたトレンド分析を行うと将来的にも通用する商品企画につながります。

また、トレンドの理由を掘り下げると、ニッチ市場での差別化のチャンスも見いだせるでしょう。

独自性のあるブランドコンセプトを作る

競合が多い化粧品市場では、ブランドコンセプトの独自性が成功を左右します。顧客が共感できる世界観やストーリーを持つブランドほど、長期的にファンを獲得しやすい傾向があります。

例えば、「環境配慮を徹底した自然派コスメ」「忙しい女性のための時短スキンケア」「肌悩み別に最適化されたパーソナルコスメ」など、コンセプト設計の段階で明確なメッセージを打ち出すことが大切です。さらに、パッケージデザイン・ネーミング・ブランドトーンを統一し、一貫したブランド体験を提供すると認知拡大とロイヤルティ向上の両立が可能になります。

ターゲット顧客のニーズに合った商品を作る

ターゲット顧客の理解は、商品開発の最も重要な出発点です。年齢、肌質、生活スタイルなどをもとにペルソナを設定し、その層がどんな課題を抱えているかを明確にします。例えば、20代向けならトレンド性や手軽さ、30代以降ならエイジングケアや安心感など、世代によって求める価値が異なります。

さらに、SNSやレビューサイトを通じてリアルな声を収集し、開発段階から消費者視点を反映させることもポイントです。自社の理念や強みを生かしつつ、顧客の解決したい課題に焦点を当てた商品こそが、リピート率の高いヒット商品になります。

ターゲット顧客に適した販売戦略を策定する

どんなに良い商品を作っても、ターゲットに届かなければ意味がありません。販売チャネル(ECサイト・ドラッグストア・百貨店・サロン専売など)は、顧客の購買行動に合わせて最適化する必要があります。

例えば、ミレニアル世代にはSNS広告やライブコマースが効果的であり、富裕層向けブランドなら百貨店での体験型販売が有効です。また、価格戦略や販売キャンペーンも、ブランドイメージと整合性を持たせることも必要です。

さらに、初期段階ではオンライン中心で展開し、データ分析に基づいて販路を拡大することで、無駄なコストを抑えながら成長が見込めます。

信頼できるOEM/ODMパートナーを見つける

化粧品事業の成否を左右する重要な要素が、製造を担うOEM/ODMパートナーの選定です。品質・納期・コストだけでなく、製造実績やサポート体制、薬機法対応なども重視すべきポイントです。

特に、初期段階では小ロット対応や柔軟な開発サポートが可能な企業を選ぶことで、リスクを抑えながら試作や改良が行えます。また、技術開発力のあるOEMと提携すれば、独自処方や特許技術を活かした他社にはない商品を作ることも可能です。

信頼関係を構築するためには、コミュニケーションの頻度と透明性の意識が欠かせません。

小ロットから始めてテストマーケティングを行う

新規ブランド立ち上げ時に大きな初期投資を行うのはリスクが高いため、小ロット生産からスタートするのが賢明です。

まずはECサイトやクラウドファンディングなどを活用し、消費者の反応をテストマーケティングとして確認します。売上データや顧客レビューを分析すれば、改善点を具体的に把握でき、次のロットではより完成度の高い製品に仕上げられます。

また、テスト段階で熱量の高いファンを獲得できれば、口コミによる自然拡散も期待できるでしょう。小規模でも確実にフィードバックを得ながらPDCAを回すことが、化粧品事業を持続的に成長させる秘訣です。

化粧品事業に新規参入した国内事例3選

国内企業が化粧品業界へ新規参入し成功した事例を見ると、既存技術やブランド資産を活かしつつ、差別化と成長戦略をうまく設計しているのが共通点です。ここでは、富士フイルム、サイバーエージェント、ロート製薬の3社の事例を紹介します。

  • 富士フイルム
  • サイバーエージェント
  • ロート製薬

富士フイルム

富士フイルムは写真フィルムで培ったナノテクノロジーやコラーゲン研究の技術を応用し、化粧品事業へ本格参入しました。独自技術を活かした高機能スキンケアブランド「ASTALIFT(アスタリフト)」は、エイジングケア市場で確固たる地位を築いています。

富士フイルム
引用:富士フイルム

アスタリフト

富士フイルムは2006年に化粧品事業へ参入し、翌2007年にはスキンケアブランド「アスタリフト」を市場投入しました。長らく写真フィルムで培ってきたナノ技術、抗酸化やコラーゲンに関する知見を応用し、化粧品領域での技術的な差別化を果たしています。

アスタリフトは、ナノアスタキサンチンという主要成分を極小化して肌へ届ける技術を武器に、肌のハリ・ツヤを訴求。最初は通信販売でスモールスタートを切り、話題性と技術訴求力で徐々に認知を拡大しました。

また、「なぜ富士フイルムが化粧品を?」という疑問に対して、企業としての答え(“Because FUJIFILM”)を示すブランドストーリーを整備。既存の写真技術資産を化粧品へ転用して新たな事業軸として成功させた典型例と言えます。

サイバーエージェント

サイバーエージェント
引用:サイバーエージェント

サイバーエージェントは、デジタルマーケティングやメディア事業で培ったデータ分析力とブランディング力を活かし、化粧品業界への新規参入を成功させた企業の代表例です。

自社グループ会社である「株式会社シロク」が展開するスキンケアブランド「N organic(エヌオーガニック)」は、2017年の発売以来、ナチュラル志向のユーザーを中心に支持を拡大しています。

N organic

N organicは、“心まで満たすライフスタイルビューティー”をコンセプトに掲げ、自然由来成分を使用したスキンケア製品を展開するブランドです。単なるコスメブランドに留まらず、香り・デザイン・世界観を通じて「自分らしい暮らし」を提案しているのが特徴です。

公式オンラインストアを中心に展開し、SNSマーケティングやインフルエンサーとのタイアップを積極的に活用することで、20〜40代女性の支持を獲得しました。

さらに、サブスクリプション型の販売モデルを導入することで、安定したリピート率を確保。化粧品市場におけるD2C成功モデルとしても注目されています。

運営元のサイバーエージェントは、広告事業での強みを最大限に活かし、顧客データを活用したCRMやLTV向上施策を戦略的に実施。これにより、短期間でブランド価値を確立し、異業種からの成功参入を果たしました。

ロート製薬

ロート製薬
引用:ロート製薬

ロート製薬は、医薬品メーカーとしての研究開発力と信頼性を活かし、化粧品・スキンケア分野でも存在感を高めています。長年にわたる皮膚科学研究を基盤に、製薬会社ならではのエビデンス重視の開発体制を構築。医療と美容の両面から肌の健康美を追求するアプローチが特徴です。

特に、肌ラボやオハジなどのブランドは、国内外で高い評価を得ており、アジア市場にも積極展開しています。

オハジ、肌ラボ

肌ラボは、“シンプルで高保湿”をコンセプトにしたスキンケアブランドで、ヒアルロン酸などの保湿成分を高濃度配合しつつ、無香料・無着色・アルコールフリーを徹底した安心設計が支持されています。

低価格ながら品質が高く、ドラッグストア市場で圧倒的なシェアを誇るヒットブランドとなりました。一方で、2024年に立ち上げた新ブランド「オハジ」は、若年層やZ世代をターゲットにしたスキンケアラインです。

SNS世代に合わせたミニマルで親しみやすいデザインや、肌へのやさしさを重視した処方で、ロート製薬の新たな挑戦として注目を集めています。

ロート製薬は、医薬・化粧品の融合を強みに、科学的根拠に基づく安心感と感性に響くブランド体験の両立を実現。海外展開にも積極的で、アジア市場を中心に日本発の高品質スキンケアブランドとして地位を確立しています。

新規事業開発の前に知っておきたい許認可と法律

新規事業開発の前に知っておきたい許認可と法律

化粧品事業を立ち上げる際には、製造や販売に関する法律を理解して必要な許認可を取得することが欠かせません。ここでは、新規事業開発の前に知っておきたい許認可と法律について解説します。

  • 化粧品製造販売業許可
  • 化粧品製造業許可
  • 化粧品輸入販売業許可

化粧品製造販売業許可

化粧品を市場に流通させるための中心的な許可が、化粧品製造販売業許可です。これは製造や販売そのものではなく、化粧品を自社ブランドとして販売する責任を持つ事業者に必要な許可であり、厚生労働省の管轄のもと、都道府県知事によって発行されます。

化粧品製造販売業許可を取得することで、事業者は製品の品質・安全性・表示内容などに対して法的責任を負うことになります。そのため、製造を外部OEMに委託する場合でも、自社ブランドで販売する場合は必ず取得が必要です。

申請には総括製造販売責任者の設置が求められ、薬機法(旧薬事法)に基づいた管理体制の整備が不可欠です。

化粧品製造業許可

化粧品製造業許可は、実際に化粧品を製造・充填・包装する施設を運営する場合に必要な許可です。製造ラインを持つメーカーだけでなく、OEM・ODM企業も化粧品製造業許可を保有しています。

設備や衛生管理、従業員の教育体制などが基準を満たしているかが審査の対象です。化粧品製造業許可を取得するには、製造環境の衛生管理や異物混入防止策など、GMP(適正製造基準)に準じた品質管理体制が求められます。

自社で製造設備を保有せず、OEMに委託する場合は不要ですが、自社工場を持つブランドはこの許可を取得すると製造から販売まで一貫した品質管理が可能になります。

化粧品輸入販売業許可

海外から化粧品を輸入して日本国内で販売する場合には、化粧品輸入販売業許可が必要です。輸入元として製品を国内市場に流通させるための責任を負う立場となるため、品質・成分・表示・安全性の確認を徹底する必要があります。

具体的には、輸入品が日本の薬機法に適合しているかを確認し、成分表やラベル表示を日本語で適切に整備することが義務付けられています。また、製品ごとに製造販売届出書の提出も必要です。

化粧品輸入販売業許可を取得すると海外ブランドを日本市場に展開したり、海外製品を取り扱う新規事業を展開したりすることが可能になります。海外コスメ市場の需要が拡大する中、輸入販売業許可の取得は今後ますます重要な戦略要素となるでしょう。

化粧品業界での新規事業開発の支援ならAXIA Marketing

化粧品業界での新規事業開発の支援ならAXIA Marketing

化粧品業界で新規事業を成功させるためには、トレンドや市場動向を的確に捉え、ターゲットの心を掴むブランド設計と販売戦略が欠かせません。

AXIA Marketingでは、化粧品市場に特化したマーケティング戦略立案から、OEM/ODMパートナー選定、販路拡大までを一貫してサポート。豊富な実績とデータ分析力を活かし、国内外での事業立ち上げを成功へ導きます。新規参入を検討している企業の方は、ぜひAXIA Marketingにご相談ください。

参考文献

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