金田大樹

記事の監修者

金田大樹

AXIA Marketing代表取締役

リサーチ会社を活用した経営判断を、日本企業の常識にしていくことがモットー。

鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅から大手調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。

新規事業を立ち上げる際に最も重要な要素のひとつが、営業戦略です。どれだけ優れた商品やサービスでも、適切な市場設定や販売戦略がなければ成果にはつながりません。

新規事業では、既存の顧客基盤や販売チャネルがない状態からのスタートとなるため、戦略的な営業設計が不可欠です。本記事では、新規事業における営業戦略の基本から、成功へ導く8つのステップ、効果的なフレームワークの活用方法までをわかりやすく解説します。

新規事業における営業戦略とは?

新規事業における営業戦略とは?

新規事業における営業戦略とは、限られたリソースの中で「どの市場で、誰に、何を、どのように売るか」を明確に定義し、収益化までの道筋を描くための計画です。

既存事業とは異なり、顧客基盤や販売実績がない新規事業では、仮説を立てながら検証を重ねる探索型の営業が求められます。そのため、営業戦略は単なる販売施策ではなく、事業戦略全体の中核をなす要素となります。

市場分析から顧客ターゲティング、提供価値の整理、営業プロセス設計までを体系的に構築することで、早期に収益モデルを確立し、事業を軌道に乗せることが可能です。

新規事業の営業戦略を立てる際の8つのステップ

新規事業の営業戦略を立てる際の8つのステップ

新規事業の営業戦略を成功させるには、明確な手順を踏んで計画を立てることが不可欠です。感覚や勢いだけで進めてしまうと、リソースを無駄に消費してしまう可能性があります。

ここでは、営業戦略を体系的に構築し、成果につなげるための8つのステップを順に解説します。

  • 市場・競合調査を行う
  • KGI・KPI(目標)を設定する
  • ターゲット顧客(誰に売るか)を明確にする
  • 自社の強みと提供価値(何を売るか)を定義する
  • 営業プロセス(どのように売るか)を設計する
  • 必要な営業ツールや資料を準備する
  • 営業チームの体制を構築する
  • テストマーケティングを実施する

市場・競合調査を行う

営業戦略の第一歩は、正確な市場理解と競合分析です。まず、自社が狙う市場の規模、成長率、トレンド、課題を把握し、どの領域にビジネスチャンスがあるかを見極めます。同時に、競合企業の製品・価格・販売チャネル・訴求メッセージを分析し、差別化のポイントを明確化することが重要です。

新規事業では、既存のプレイヤーが満たしていないニーズや、業界の変化によって生まれる隙間市場を特定できるかが成否を分けます。データに基づく市場理解を起点にすることで、確実性の高い営業戦略を構築できます。

KGI・KPI(目標)を設定する

市場分析の次は、事業の方向性を定めるためのKGIとKPIを設定します。KGIは最終的に達成すべきゴール、例えば、「半年で新規顧客50社獲得」「年間売上1億円達成」といった成果目標を指します。

一方KPIは、その達成に向けた中間指標であり、「商談件数」「問い合わせ数」「成約率」などです。これらを明確に数値化することで、営業活動の方向性が統一され、チーム全体の進捗管理が容易になります。

新規事業では、KPIを短いサイクルで検証し、柔軟に修正していくアジャイル型の目標管理が効果的です。

ターゲット顧客(誰に売るか)を明確にする

営業戦略において誰に売るかを明確にすることは、最も重要なプロセスの一つです。新規事業では顧客層が確立されていないため、想定顧客を仮説として設定し、ペルソナを具体化する必要があります。

年齢、業種、職種、課題、意思決定プロセスなどを詳細に整理し、「この顧客にとって何が価値なのか」を定義。特にBtoBの場合、購買担当者だけでなく経営層や現場責任者など複数の意思決定者が関与するため、各層に刺さる訴求軸を設計することが求められます。

顧客を広く取りにいくよりも、まずは特定セグメントに集中するフォーカス戦略が成功の鍵です。

自社の強みと提供価値(何を売るか)を定義する

ターゲットを定めたら、次に自社は何を提供できるのかを明確にする段階です。ここでは、単なる製品やサービスの特徴ではなく、顧客にとっての価値を中心に考えることが重要です。

例えば、「コスト削減」「業務効率化」「売上拡大」など、顧客が得られる具体的なベネフィットを整理します。そのうえで、自社の技術・知見・人的リソースなどを踏まえて競合との差別化ポイントを明確化します。

このプロセスは、営業資料やプレゼンテーションの軸にもなるため、言語化とストーリーデザインが鍵です。自社の強みと顧客の課題解決が明確なほど、営業活動の再現性と成果は高まります。

営業プロセス(どのように売るか)を設計する

営業戦略を実行に移すためには、どのように売るかという営業プロセスを体系的に設計することが不可欠です。新規事業の場合、見込み顧客の獲得から成約までの流れを可視化し、どの段階でどの施策を行うかを定義する必要があります。

例えば、リード獲得(問い合わせ・資料請求)→商談設定→提案→クロージング→アフターフォローという一連の流れを明確にし、それぞれのステップで達成すべき成果と行動指標を設定します。

また、顧客の購買プロセスと営業プロセスを一致させることで、より効率的な顧客アプローチが可能です。プロセス設計は、チーム全員が同じ型で動ける仕組みづくりと捉えることが成功の鍵です。

必要な営業ツールや資料を準備する

営業活動をスムーズに進めるためには、効果的な営業ツールや資料の整備が欠かせません。新規事業では製品やサービスの認知が低いため、まず顧客に「なぜ自社を選ぶべきか」を伝えるストーリー設計が必要です。

提案資料やプレゼンテーションスライド、導入事例集、FAQシートなどを整備し、顧客の疑問に即答できる体制を整えましょう。BtoB営業では、ROI(投資対効果)を示すデータや成果事例が重要な説得材料になります。

また、CRMやSFAを導入し、案件進捗や商談履歴を一元管理することで、チーム全体の生産性が向上します。ツールは効率化だけでなく、顧客理解を深めるための武器として活用することがポイントです。

営業チームの体制を構築する

営業戦略を実現するうえで、最適なチーム体制の構築は極めて重要です。新規事業の立ち上げ初期は、営業担当者がマーケティング・企画・顧客対応を兼務するケースも多く、役割分担が曖昧になりがちです。そのため、営業プロセスに基づいて「リード獲得担当」「商談担当」「カスタマーサクセス担当」など明確に役割を定義し、責任範囲を可視化する必要があります。

また、メンバーのスキルや経験に応じた育成計画を設け、定期的なフィードバックを行うことで、組織全体の営業力を底上げできます。さらに、情報共有会議やナレッジデータベースの運用により、個人に依存しない再現性のある営業チームを構築することが、新規事業をスケールさせるための鍵です。

テストマーケティングを実施する

営業戦略が完成したらいきなり本格展開するのではなく、テストマーケティングで検証を行うことが重要です。新規事業は市場ニーズや顧客の反応が不確定なため、小規模で実施してデータを収集・分析し、仮説を検証するプロセスが欠かせません。

具体的には、特定のターゲット層に限定して商談・提案を行い、成約率や反応率、価格感度、商談時の質問傾向などを分析します。その結果をもとに訴求メッセージや販売チャネル、営業トークを改善することで、本格展開時の成功確率を高められます。

テストマーケティングは実践型の市場調査とも言え、失敗を恐れず素早く検証・改善を繰り返すことが、新規事業の成長を加速させる最短ルートです。

新規事業の営業戦略を立てる際の3つのポイント

新規事業の営業戦略を立てる際の3つのポイント

新規事業の営業戦略では、限られたリソースを最大限に活かすために戦う市場と顧客を見極めることが何より重要です。ここでは、営業活動を効率的かつ効果的に進めるための3つのポイントを紹介します。

  • ターゲット顧客を絞る
  • 完璧を目指さず仮説検証を繰り返す
  • 現実的な目標を設定する

ターゲット顧客を絞る

新規事業の初期段階では、誰にでも売れる商品やサービスを目指すのではなく、特定の顧客層に絞り込むことが成功の鍵となります。市場を広く取ろうとすると、訴求メッセージがぼやけてリソースが分散してしまうため、まずは勝てる市場に集中することが重要です。

具体的には、業界・企業規模・地域・課題・意思決定者の特徴などから顧客セグメントを明確化し、「この層に最も刺さる提案は何か」を検討します。ペルソナを設定することで、営業トークや資料、広告メッセージも統一でき、顧客の共感を得やすくなります。

最初から全方位を狙うのではなく、ニッチ市場で成果を出し、実績を積み上げてから市場を拡大するスモールスタート戦略が有効です。

完璧を目指さず仮説検証を繰り返す

新規事業において、最初から完璧な営業戦略を作ることはほぼ不可能です。なぜなら、顧客の反応や市場環境は常に変化し、計画通りに進むことは稀だからです。

そのため、仮説を立てて実行し、結果を検証・改善する仮説検証型アプローチ(PDCA)を継続することが不可欠です。例えば、「この顧客層にはこの価格帯が受け入れられる」「この訴求メッセージで成約率が上がる」等の仮説を立て、短期間で小さくテストを繰り返します。

実際の商談や問い合わせデータをもとに、成果が出た要因・出なかった要因を分析し、戦略をブラッシュアップしていくことで、再現性のある営業モデルが構築されます。スピードと柔軟性を重視した走りながら学ぶ姿勢が、新規事業成功の鍵です。

現実的な目標を設定する

新規事業の営業戦略では、挑戦的でありながらも現実的な目標設定が求められます。高すぎる目標はチームのモチベーションを下げて低すぎる目標は成長機会を逃してしまうため、データと実績に基づいた適切な水準を見極めることが大切です。

KGIとKPIを明確に設定し、どの指標をどの期間で達成すべきかを数値で管理します。さらに、営業活動のフェーズごとに達成基準を設定することで、進捗の可視化と課題発見が容易になります。特に新規事業では、初期の段階で想定外の課題が生じるため、目標を柔軟に見直しながら現実的な達成ラインを調整することが重要です。

計画を実行可能な形に落とし込むことで、チーム全体の一体感と実行力が高まります。

営業戦略の立案に役立つ代表的なフレームワーク

営業戦略の立案に役立つ代表的なフレームワーク

営業戦略を効果的に立てるには、感覚ではなく論理的な分析が欠かせません。ここでは、事業や市場の現状を整理し、戦略の方向性を導き出すために役立つ3つの代表的なフレームワークを紹介します。

  • SWOT分析
  • 3C分析
  • 4P分析

SWOT分析

SWOT分析とは、自社の内部環境と外部環境を「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つに整理する手法です。

内部要因である強みと弱みでは、自社の営業力、商品力、ブランド力、販売チャネルなどを客観的に評価します。一方、外部要因である機会と脅威では、市場の成長性、顧客ニーズの変化、競合動向、法規制などを分析します。

この4つを組み合わせることで、自社がどの領域で勝負すべきかを明確化でき、営業戦略の優先順位を決めることが可能になるのです。新規事業では、既存の強みを活かしながら新たな市場機会をどう捉えるかを整理するために非常に有効な手法です。

3C分析

3C分析は、「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から現状を把握し、差別化の方向性を見出すフレームワークです。

顧客では、ターゲット層の課題・ニーズ・購買行動を深掘りし、「何が求められているか」を明確にします。競合では、他社の強み・弱み・ポジショニングを分析し、自社との違いを整理します。

自社では、自社が顧客価値を提供できる領域を検討し、強みを最大限に発揮できる戦略を構築。3C分析は、営業戦略の初期段階で「どの市場で」「誰に」「どのように勝つか」を見極めるために最適です。

新規事業では、参入リスクを減らし、リソースを集中投下すべき領域を判断する基礎データとして活用できます。

4P分析

4P分析は、マーケティング戦略を営業活動に落とし込む際に有効なフレームワークで、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販促)」の4つの要素で構成されます。

「Product」では、製品やサービスの特徴・付加価値・デザインなど、顧客に提供する価値を定義。「Price」では、価格設定の妥当性や利益率を考慮しながら、競合とのバランスを取ります。

「Place」は販売チャネルや流通体制の設計、「Promotion」は広告・SNS・営業資料などを通じた顧客への訴求活動を指します。新規事業の営業戦略において4P分析を行うことで、どのように顧客へ届けるかという実行レベルの戦略を具体化可能です。

4Pをバランスよく設計することで、販売プロセスの一貫性と成果の最大化を実現できます。

代表的な3つの営業手法

代表的な3つの営業手法

営業戦略を実行する上では、ターゲットや商材に応じて最適な営業手法を選ぶことが重要です。ここでは、新規事業でも活用しやすい代表的な3つの営業手法を紹介します。

  • インバウンドセールス
  • アウトバウンドセールス
  • 代理店販売

インバウンドセールス

インバウンドセールスとは、顧客からの問い合わせや資料請求など顧客の自発的な行動に基づいて営業を行う手法です。Webサイト・SNS・広告・セミナーなどを通じて潜在顧客を惹きつけ、興味を持った見込み顧客に対して提案を行います。

新規事業では、まだ認知が低い段階でもコンテンツマーケティングやホワイトペーパーを活用することで、効率的にリードを獲得できます。従来の押し売り型営業と異なり、顧客が課題を自覚した状態で接点を持つため、商談の質が高く成約率も向上しやすいのが特徴です。

また、マーケティングオートメーション(MA)ツールやCRMと連携することで、見込み顧客の興味度をスコアリングし、優先順位をつけたアプローチが可能になります。長期的にブランド信頼を構築できる点も大きな魅力です。

アウトバウンドセールス

アウトバウンドセールスは、企業側から積極的に見込み顧客へアプローチを行う攻めの営業手法です。電話、メール、展示会、訪問営業などを通じて接点を作り、ニーズを顕在化させて提案につなげます。

新規事業においては、短期間で市場検証を行いたい場合や、まだ認知が広がっていないフェーズで特に有効です。成功の鍵はターゲットリストの精度とパーソナライズされた提案にあります。単なる営業リストへの一斉アプローチではなく、業界・役職・課題などに基づいて提案内容を最適化することで、商談化率を高められるでしょう。

近年では、SFAやデータ分析ツールを活用し、成果を数値化・改善する動きも進んでいます。迅速な市場開拓や実践的な検証に向く手法です。

代理店販売

代理店販売は、自社の代わりに販売活動を行うパートナー企業(代理店)を通じて顧客を獲得する営業手法です。自社の営業リソースを直接増やすことなく、販路拡大や地域展開をスピーディーに実現できる点が大きなメリットです。

新規事業では、限られた人員で広範な市場にリーチしたい場合に効果があります。ただし、代理店に販売を委託する際は、ブランド方針や価格戦略、顧客対応ルールを明確に共有することが重要です。パートナー任せにすると、顧客体験の質が不均一になり、ブランド価値を損なうリスクがあります。

そのため、販売支援資料の提供や定期的な研修を実施し、代理店との信頼関係を築くことが成功の鍵です。共に成長する戦略的パートナーシップとしての位置付けが理想です。

国内・海外での新規事業開発の支援ならAXIA Marketing

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新規事業の営業戦略を成功させるには、市場分析から目標設定、営業プロセスの設計、そして仮説検証までを一貫して行うことが重要です。立ち上げ期は、限られたリソースの中で優先順位を明確にし、顧客の反応を見ながら柔軟に戦略を修正するスピード感が求められます。

AXIA Marketingでは、国内外の市場調査から事業戦略立案、営業支援までをトータルでサポート。データ分析と現場実践を融合させ、企業の新規事業を着実に成長軌道へ導きます。新規事業開発でお悩みの方は、ぜひご相談ください。

参考文献

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