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知的財産戦略とは?必要性とメリット、フレームワークなどを徹底解説

知的財産戦略

企業にとって、自社の保持する知的財産を競合他社の侵略から守り、更なる市場拡大を目指すための戦略を構築することは非常に重要です。

この記事では、知的財産戦略の背景と意義、また必要性とメリット、フレームワークの設定とポイントなどについて詳しく解説します。

知的財産戦略の背景

先行き不透明な国内外の社会・経済情勢の変化に伴い、わが国における産業の国際競争力強化を図る必要性が増大しています。

こうした状況に鑑(かんが)み、知的財産の創造・保護と活用に関する施策を計画的に推進することを主な目的として、平成15年3月に首相官邸が内閣に知的財産戦略本部を設置しました。

知的財産とは、人や企業がさまざまな創作活動を通じて生み出す、財産価値を有するもので、有形ではない無体物(形を持たないもの)です。

ここ最近、企業価値に占める無形資産の割合が増大しており、こうした知的財産を活用することが企業経営を行う上でますます重要となっています。

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知的財産戦略とは

企業や人間が幅広い知的活動を行う際に産み出すアイデアや創作物は無限大です。

このうち、財産的な価値をもつものを「知的財産」と呼び、「知財(ちざい)」と略されます。この知財に法律で独占権を与えたものが「知的財産権」です。

これを細分化すると、様々なビジネスに深く関わるのが特許権(発明)・実用新案権(考案)・意匠権(デザイン)・商標権(ブランド)の4つとなり、総じて「産業財産権」と呼ばれ、特許庁で所管しています。

知的財産戦略とは、企業が既存市場の拡大や新たな市場開拓を目指し、競合他社の知的財産権の状況を把握しながら、自社の戦略を立案することを指します。

具体的には、事業戦略を実行するために必要な開発を検討する段階で、競合他社の知的財産権を把握して、独自の開発戦略を立てる行為となります。

その結果、差別化した自社独自の成果に対して知的財産権を確立・活用し、市場を獲得することになります。

総じていえば、企業が自社の知的財産権を武器として、競合他社の市場介入を阻止し、市場のシェアを獲得・拡大して事業拡大を目指すものです。

知的財産戦略の必要性

国内外の産業を取り巻く競争力は大きく変化しています。

ここ最近、異分野や海外からの新規参入などにより、従来自社が有していた競争力を維持できない状況となっています。

こうした状況下、企業は自社の知的財産戦略を実行することで、競合他社の安易な市場参入を許さず、価格競争を避けて利益率の向上を図ることが非常に重要です。

競合他社の参入を許さないためには、自社が既に開発している技術や製品を「知的財産権」という形で資産化し、他社からの権利侵害への対抗やライセンス付与など、適切に活用することで、市場での技術的優位性を保つ必要があります。

こうした対応によって市場をコントロールすることで、利益を確保するための経営戦略を構築することが重要なポイントです。

知財戦略を立案するには、企業の業種や規模、また成長ステージなどによって、自社が現在置かれた状況をよく把握し、分析することがポイントとなります。

そして、知財戦略は単独では成立せず、自社の経営環境や経営戦略といった状況を十分把握した上で、経営課題に対して成果の挙がる知財戦略を立案する必要があります。

知的財産戦略のメリットと、戦略がないデメリット

企業が競合他社からの参入や妨害を防ぐために立案する知的財産戦略のメリットと、逆に知的財産戦略を持たない場合のデメリットについて解説します。

知的財産戦略のメリット

知的財産における産業財産権という独占権により、競合他社はアイデアや創作物などを勝手に真似できず、その結果、競合他社に対する損害賠償請求ができるようになります

他社が追随できないことは大きなメリットであり、独占によって価格競争を回避し、収益性を確保できます。

また、知的財産を有することで特許技術などが公的に認定されるので、大手企業とライセンス契約を締結することで大きな利益が獲得可能となります。

さらに、知的財産戦略によって特許を取得することにより、自社の主力製品分野へ競合他社の参入を阻止することができます。

具体的なメリットとしては、次の項目が挙げられます。

・自社が有する独自技術をベースとした知的財産権を取得することで、競合他社の参入を防いで市場優位性を確保できます。
・企業のブランド価値が向上することによって消費者からの信頼や評価が高まり、市場シェアが拡大します。
・ライセンス契約や権利譲渡を行うことで、収益の増大が見込めます。
・知的財産権で自社の独自性を可視化することにより、企業価値全体を容易に評価できます。
・競合他社の知的財産権を把握することにより、他社からの攻撃を防止して円滑に事業が遂行可能となります。

知的財産戦略を持たないデメリット

一方、知的財産戦略がない場合には、自社の技術を競合他社が採用し、同じスペックで低価格製品を発売した場合に、自社製品の売上げ減少など大きな被害が生じます。

自社製品を真似た製品が市場に出回った際にも、自社の技術を権利化していないと対抗する手段がなく、結局なすすべがありません。

フレームワークの策定とポイント

知的財産を活用するには、効果的・効率的なフレームワークを策定することが重要です。
フレームワークの策定とポイントについて解説します。

フレームワークの策定

知的財産を活用するため、次のようなフレームワークを策定します。

STEP1. コンセプトの立案

自社の事業内容や経営情報などに基づき、まずは自社の現状分析を実施します。

その際には、有名な分析手法として知られるSWOT分析(*)などのフレームワークを活用して自社事業の状況を分析するのも方策です。

こうしたフレームワークを用いることで、自社の強みや弱み、また市場進出のチャンスなどのポイントを明確化できます。

(*)自社のおかれた状況について、強み(Strength)・弱み(Weakness)・機会(Opportunity)・脅威(Threat)の4項目をマトリックス化して分析する方法

その上で、自社が保有するアイデアやコンセプトが商業的に応用可能かどうか確認し、知的財産として登録可能か判断します。

STEP2. 商品・サービスの開発

自社が保有している知的財産に関する評価を行います。

自社が提供する製品・サービスやノウハウに関する知的財産が市場でどのような位置付けにあるのか確認するとともに、競合他社の知的財産保有状況を調査します。

こうした調査を通じて競合企業を特定し、業務全般および知的財産戦略を考慮して、該当する製品やサービスの開発を実施します。

STEP.3 知的財産の保護

自社の知財・無形資産に対する投資の必要性を判断し、自社の知財・無形資産を支えるビジネスモデルを保護するために取るべき具体的な方策について、戦略的な知財マネジメントを実施します。

その上で、自社が保有する知的財産に対する適切な保護戦略を特定します(特許・営業秘密や意匠・商標、オープンソースなどの知的財産)。

STEP.4 商業化・市場化

自社が直面する経営環境を分析し、経営課題を明確化した上で、投資すべき重点分野を決定した後は、商業化と市場化へと進めていきます。

経営資源は限定されているので、「メリハリ」をはっきりさせた知財活動を行うことが重要です。自社の価値観や価値創造を意識したビジネスモデルを検討し、その中で、知財・無形資産が生み出す機能と役割を明確化します。

そして、自社が所有する商品・サービスについて適切なブランド化を実施し(商標、包装、ウェブサイト、ドメイン名など)、商業化を図ります。

知的財産を活用するためのポイント

知的財産を活用するためのポイントは次のとおりです。

現状把握

上述のとおり、自社が現在保有する知的財産を定期的に把握し、更には「見える化」に至るまで可視化することで、自社技術の現状を正確に把握することが重要です。

自社が持つ複数の知的財産に関するポートフォリオを作成することで、保有知財の相対価値や、競合他社との差異が可視化され、市場における自社のポジションが明確化されます。

経営戦略との連動

企業の知財戦略と経営戦略とは密接に関連しています。通常、知財戦略は企業における経営戦略の一部として位置付けられていますが、経営戦略の中でそれぞれの機能別戦略に関する方向性を決定する重要な役割を果たしています。

知的財産を権利化するだけではなく、自社の経営戦略や事業戦略との整合性を図り、事業に必要な技術やビジネスモデルを確認し、連動させることがポイントです。

戦略の策定

知財戦略の策定にあたっては、特許や商標・意匠、ノウハウやブランドなど、知的財産や無形資産活用の要素を取り込むことが重要となります。

長期間にわたって自社の商品・サービスの価値を維持するためには、戦略を策定した上で、競合他社との差別化と競争優位性を確保することがポイントとなります。

体制整備

知財情報を組み込んだ経営・事業情報を分析することで、自社の強みをより客観的・相対的に認識できます。

知的財産を活用し、事業運営を万全とするためには、適切な任務遂行が可能な組織体制の構築がポイントとなります。

自社の知財部門が持つ機能を整備し、それぞれの役割を明確化した上で、業務遂行が可能な体制を築くことが重要です。

情報開示

知的財産戦略を実行すると同時に、自社の強みを開示することが重要です。

また、自社の強みをアピールすることにより、ステークホルダーや関係者を包含した企業価値の向上を図ることがポイントです。

知的財産を活用した利益の最大化

全ての企業における経営戦略に共通する目標として、投資からより多くの収益を得ること、つまり利益を最大化することが最大の使命です。

特に技術系の企業では、研究開発に関する投資から生じた知識をいかに収益に結びつけるかが成功のポイントです。

知的財産権は、自社が生み出した知識を権利として確保し、事業を保護・拡大するための重要なツールとなります。

利益の源泉であるコア技術を独占しながら、周辺領域の技術を広くライセンス化して普及促進を図ることがポイントです。

費用・条件など

知的財産権の中でも主要な権利である産業財産権ですが、権利に必要な費用はさまざまです。

自社が開発した新製品や技術に関する費用について、しっかりと把握することが重要です。

特許出願に際しての具体的な費用項目と費用の目安は下表のとおりです。

知財戦略の調査を依頼する際には、各機関・各会社により費用感には幅がありますので、実際の調査にあたっては個別・具体的に確認が必要です。

開放特許の活用と知的戦略の活用

開放特許の活用と知的戦略の活用について解説します。

開放特許の活用

知的財産権には一定の「独占権」が与えられています。

その一方、国内の特許の利用率は約5割程度であり、半数の特許が使われていない現状があります。

こうした状況下、特許権の有効利用を進める方法として「開放特許」が挙げられます。

開放特許とは、「特許権のライセンス付与や権利譲渡を希望する特許権者が一般に開放している特許」を指します。

具体例を1つ挙げます。

ある金属加工企業は、抗菌めっき技術に関する研究開発を進めていました。

中小企業のため経営資源が不足しており、大手製鉄メーカーの開放特許のライセンス供与を受けました。現在、同社では当該特許を利用し、医療機器メーカーなどに新製品の提案を進めています。

このように、開放特許を活用することで研究開発の時間が短縮され、開発費用も低減できるメリットがあります。

また、自社が使用してない特許を開放特許として公開することで、ライセンス料収入などが期待できます。

知的戦略における使用必須のサイト

独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」では、特許庁が所管する産業財産権の検索が可能となっています。

詳しくは下記サイトをご参照ください。

参照:特許情報プラットフォーム(J-PlatPat) 公式サイト

知財戦略は自力で策定できる?

知財戦略は自力で策定できるのでしょうか?

結論から言えば、可能です。

知的財産権情報は公報で公開されていますので、自社が取り組むべき分野での状況を確認します。

参照:特許庁

その後、特許分類を抽出し、自社で情報分類・収集・分析を実施します。

さまざまな分析手法がありますが、自社に最適な手法を取り入れて実践すれば、対応は可能です。

その一方、知的財産戦略を自力で策定する場合には、想定外の事態に直面したり、結果として取り組み自体がマイナスの方向へと向かうこともあります。こうした状況を避けるためには、専門の事業者に依頼することをお勧めします。

取り組み事例

知的財産戦略の代表的な活用事例についていくつか取り上げ、解説します。

キヤノン:守りと攻めの特許戦略を軸に新規参入と事業拡大

1950年代にカメラメーカーとして発足したキヤノンは、先行する競合企業の特許網を突破する新技術を特許化し、後発からの参入に成功しています。

その後、1970年以降も新たなコア技術の開発による特許取得と周辺技術の開発による特許取得を積み重ね、複写機の分野で現在に至るまで確固たる地位を構築しています。

同社hpから引用:

“キヤノンの知的財産活動は、ドイツのライカ社が保有する特許を避けてカメラを開発するための実用新案の取得から始まりました。その後、1960年代にはキヤノンは複写機分野へ参入し、米国のゼロックス社が保有していた完璧といわれた特許網をかいくぐり、ゼロックス社の特許に触れない、新しい電子写真技術「NP方式」を開発することに成功しました。これらの経験がキヤノンの知的財産戦略の基礎となり、今日まで受け継がれています。”

参照:キヤノン「テクノロジー」公式サイト

マイクロソフト:先読みでの特許取得による仲間づくり

同社で継続的に実施している「発明先取り会議」は、まだ他の誰もが取り組んでいないテーマについて、5年後~10年後を考えたらこの領域で「こういうことが始まるのではないか」を考え、新たな発明を考えるものです。

同社の特許出願している主な分野について共通特許分類(CPC分類)のランキングで確認すると、その7割近くがG06F(電気的デジタルデータ処理)に関する出願となっています。

未来の事業戦略を描き、必要な特許を先に確保することで、戦略を達成することが可能となります。

KDDI:スタートアップ企業との事業共創

同社は1985年に国策会社として発足(国際電信電話株式会社)後、通信自由化に伴う合併などを経て2000年に発足しました。

その後、現在に至るまで多種多様なスタートアップ企業との協業による新規事業を創出し、知的財産部門を中心に事業の共創を推進しています。

同社hpから引用

“新規事業の創出と事業競争力の強化には、共創相手であるグループ会社やスタートアップの成長が不可欠との考えから、グループ会社や出資先スタートアップの知的財産活動(発明発掘、特許侵害調査、IPランドスケープなど)の支援を推進しています。

こうした支援の取り組みが認められ、2019年度に知財活用企業(オープンイノベーション推進企業としては初)として「知財功労賞」(経済産業大臣表彰)を受賞しました。

今後も新規事業の創出と事業競争力の強化のために、KDDIグループの知的財産活動の強化を図っていきます。”

参照:KDDI「知的財産マネジメント」 公式サイト

三井化学:知的財産のベストミックスを戦略的に活用

同社は、知的財産を幅広い事業分野に活用できる無形資産として考慮し、知的財産のベストミックスを戦略的に活用することが持続的な競争優位の実現に重要であるとして、さまざまな対応を行っています。

同社hpから引用

“VISION2030の全社基本戦略である、(1)社会課題視点に基づく事業ポートフォリオ変革、(2)事業デザイン力の強化とソリューション型ビジネスモデルの構築、(3)環境基盤技術の開発・獲得とサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの構築、(4)デジタル・トランスフォーメーションの全社・全領域への展開に基づき、事業部門/研究開発部門/生産技術部門、さらにグループ内外の関係部署とも緊密に連携して、競合に対して優位となる知的財産の取得・活用の方針を逐次見直し、事業に資する知財ポートフォリオを構築していくことにより、知的財産を活用した事業機会の最大化と知的財産に起因する事業リスクの最小化に取り組んでいます。”

参照:三井化学「知的財産」 公式サイト

まとめ

知的財産戦略の背景と意義、必要性とメリット、フレームワークの設定とポイントなどについて解説しました。

この記事を読んで、自社で有効活用可能な事業者は是非お役立てください。

また、知財戦略でお悩みのご担当者さまはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

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参考文献

知的財産戦略本部
知的財産権活用事例 | 経済産業省 特許庁
中小企業経営者のための知的財産戦略マニュアル
知的財産戦略 | 研究開発 | 帝人株式会社
知的財産戦略|イノベーション|明治ホールディングス株式会社
知的財産の保護・活用 | 研究・技術開発 | レゾナック
知的財産戦略 | 三菱ケミカルグループ
知的財産戦略 | 研究・開発 | 旭化成株式会社
知財活用に向けたフレームワーク – KPMGジャパン
知財戦略とは? ~考え方と成功企業の事例を簡単に解説~|TechnoProducer株式会社|
事例から学ぶ!「知財戦略」 | 経済産業省
知財経営とは | 支援情報 | INPIT岡山県知財総合支援窓口
一歩ずつ進める中小企業向け知財戦略チェックリスト
スタートアップ・ベンチャー・中小企業のための特許出願|弁理士法人みなとみらい特許事務所

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