金田大樹

記事の監修者

金田大樹

AXIA Marketing代表取締役

リサーチ会社を活用した経営判断を、日本企業の常識にしていくことがモットー。

鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅から大手調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。

タイは東南アジアでも経済成長が著しく、製造業・IT・観光業を中心に多くの外国企業が進出しています。しかし、外国資本による経済支配を防ぐために外国人事業法をはじめとした外資規制が設けられており、業種によっては外国人の出資や経営に制限がかかる場合があります。

本記事では、タイの外資規制の基本から外国人事業法の仕組み、BOI(タイ投資委員会)の優遇制度までを分かりやすく解説します。

タイの外資規制とは?

タイの外資規制とは?

タイの外資規制とは、外国資本が国内市場で過度な影響力を持つことを防ぎ、国内企業の競争力や雇用を守るために設けられた法制度です。特に、外国人事業法がその中心的な役割を担っており、外国人がタイ国内で事業を行う際の出資比率や許可条件を明確に定めています。

外国資本が50%を超える企業や外国人が経営権を持つ企業は、原則として外資企業として扱われ、参入できる業種が制限されます。一方で、政府の投資奨励政策(BOI認可)を受けることで一部規制が緩和される場合もあります。

こうした制度を理解し、事業形態に合った進出戦略を立てることが成功の鍵です。

タイにおける外資規制 外国人事業法(FBA)の概要

タイにおける外資規制 外国人事業法(FBA)の概要

タイの外資規制の中核をなすのが、外国人事業法です。この法律は、外国人がタイで事業活動を行う際の参入条件や許可要件を定めたもので、1999年に施行されました。外国人の定義を明確にし、外国資本の比率に応じて事業分野を3つのカテゴリーに分類しています。

事業の種類によっては、外国人が原則として参入できない分野や、政府の許可を必要とする分野もあります。タイで法人設立や事業拡大を検討する際は、まずこのFBAの仕組みを理解しておくことが不可欠です。

  • 「外国人」の定義
  • 規制対象となる3つの事業リスト

「外国人」の定義

外国人事業法における「外国人」とは、単にタイ国外の個人を指すだけではありません。外国資本が50%以上を占める法人や、外国人が経営権を握る企業も対象となります。

つまり、タイ国内で設立された企業であっても、出資比率や意思決定の実態によっては外国企業として扱われることがあります。

また、外国人による株式保有の比率や議決権の構成も判断基準に含まれます。日本企業がタイに進出する際には、名義株主制度を利用して出資比率を調整するケースもありますが、実態が外国支配と判断されれば規制対象となる点に注意が必要です。

規制対象となる3つの事業リスト

FBAでは、外国人が行うことが制限または禁止される事業を3つのリスト(第1種、第2種、第3種)に分類しています。これらのリストは、タイの国益や文化保護、国家安全保障、国内産業育成などを目的として定められたものです。

第1種は外国人の参入が全面的に禁止されている事業、第2種は内閣の許可が必要な事業、第3種は商務省の許可を得れば参入できる事業となっています。

業種によって規制の厳しさが異なるため、事業計画を立てる前にどのカテゴリーに該当するかを確認することが重要です。

第1種事業(外国人の参入が禁止されている事業)

第1種事業とは、外国人による参入が原則として全面的に禁止されている分野を指します。これは、タイの伝統・文化・国家主権の保護を目的とした業種で構成されており、外国資本の関与が一切認められません。

具体的には、新聞・放送業、農業・畜産、土地取引、森林開発、仏像の製造・販売などが該当します。これらの業種は、タイの国民的資源や文化的価値に深く関わる分野であるため、外国人の影響を排除することで国家の独立性を維持しています。

日本企業がこれらの分野で事業を行う場合、現地企業との提携や技術供与契約など、間接的な参入方法を検討する必要があります。

第2種事業(内閣の許可が必要な事業)

第2種事業は、外国人が事業を行う際に内閣の許可が必要となる業種を指します。これは、国家安全保障・文化保護・天然資源管理・社会的安定など、公共の利益に関わる分野です。例えば、タイの天然資源を利用する鉱業、輸送・通信関連事業、観光や飲食など一部のサービス業が含まれます。

許可を得るためには、現地の雇用創出や技術移転、環境保全など、タイ政府にとってのメリットを明確に示すことが求められます。手続きは複雑で時間がかかりますが、許可を取得できれば安定した事業運営が可能になります。

日本企業は、信頼できるローカルパートナーと協力して申請を進めるのが効果的です。

第3種事業(事業許可の取得が必要な事業)

第3種事業は、外国人が自由に参入できるわけではないものの、商務省からの事業許可を取得すれば実施可能な業種を指します。対象となるのは、卸売・小売、広告業、物流、コンサルティングなど、外国資本の進出が比較的活発な分野です。

申請時には、事業計画書・財務状況・雇用計画などを提出し、タイ社会への貢献度を評価されます。審査の結果、国内経済に悪影響を与えないと判断されれば許可が下ります。

なお、BOIの認可を得た企業は、この許可を免除されるケースもあります。したがって、進出業種が第3種に該当する場合は、FBAとBOIの両方の制度を踏まえた戦略立案が重要です。

知っておきたいその他の重要規制

知っておきたいその他の重要規制

タイで事業を展開する際には、外国人事業法以外にも注意すべき重要な規制が複数存在します。土地所有と資本金に関する規制は、外資系企業の進出可否や事業スキームに大きな影響を与える要素です。外国人は原則としてタイ国内の土地を所有できず、資本金についても事業形態によって最低額や出資比率が厳密に定められています。

これらの規制を正しく理解し、事前に対策を講じておくことで、進出後のトラブルを防ぎ、スムーズな事業運営を実現できます。

  • 土地所有に関する規制
  • 資本金に関する規制

土地所有に関する規制

タイでは、外国人または外国資本が過半数を占める法人は、原則として土地の所有を認められていません。これは国家主権や資源保護の観点から厳格に管理されている制度であり、外国企業が事業拠点を設ける場合には賃貸という形で土地を利用するのが一般的です。

通常、商業用地であれば最長30年間のリース契約が可能で、必要に応じて延長も認められます。また、BOIの認可を受けた企業や工業団地内の入居企業など、特定の条件を満たす場合には例外的に土地所有が認められるケースもあります。

したがって、事業計画段階から不動産の取得方法や利用スキームを慎重に設計することが不可欠です。

資本金に関する規制

タイでは、外国企業が設立する法人に対して、事業内容や業種に応じた最低資本金の要件が定められています。一般的には、外国資本比率が50%を超える会社は外国法人とみなされ、1事業あたり最低200万バーツ(約800万円相当)の資本金を要します。

また、外国人事業ライセンスを必要とする業種では、最低資本金が300万バーツ以上に引き上げられる場合もあります。さらに、BOI認可を受けた企業の場合、投資計画や雇用創出などの条件に基づき、資本金の要件が緩和されることもあります。

資本金は単なる数字ではなく、企業の信用力や許認可取得の審査にも影響するため、事業内容に応じた適切な資本設計を行うことが成功の鍵となります。

タイの外資規制をクリアする2つの方法

タイの外資規制をクリアする2つの方法

タイでは、外国人が事業を行う際に多くの規制が設けられていますが、適切な制度を活用することで合法的に進出・運営することが可能です。特に代表的な方法が外国人事業ライセンスの取得と、BOIライセンスの活用です。

これらの制度を利用すれば、外国人でも一定の条件のもとでタイ国内での事業活動を認められます。ただし、申請要件や審査基準は厳しく、事業計画の内容や社会的貢献度が重視されます。

自社の事業内容や目的に応じて、どちらの制度を選ぶか慎重に判断することが重要です。

  • 外国人事業ライセンス(FBL)を取得する
  • BOIライセンスを取得する

外国人事業ライセンス(FBL)を取得する

外国人事業ライセンスは、外国人がタイ国内で規制対象事業を行う際に必要となる政府認可です。FBLは商務省が所管しており、外国資本が50%を超える企業が事業を行う場合に原則として取得が義務付けられています。

申請時には、事業計画書、資本金証明、現地雇用計画、技術移転の詳細などを提出し、審査の上で許可が下ります。特に、タイ経済への貢献度が重視される点が特徴です。FBLの取得には通常3〜6か月を要し、手続きは煩雑ですが、許可を得ることで安定的に事業を運営することが可能になります。

法的リスクを避けるためにも、現地の法律事務所やコンサルタントのサポートを受けることが推奨されます。

BOIライセンスを取得する

BOIライセンスとは、タイ投資委員会が発行する投資奨励認可であり、外国資本を含む企業に対して特別な優遇措置を与える制度です。BOI認可を受けた企業は、FBLの取得が不要となるほか、法人税免除、輸入関税の軽減、外国人労働者の就労許可の緩和など、多くの特典を享受できます。

対象となるのは、タイ政府が重点的に育成を進めている産業分野であり、申請には投資額や技術移転計画などの条件が求められます。

審査は厳格ですが、認可を得ることで長期的かつ安定した事業展開が可能です。日本企業がタイ進出を検討する際は、まずBOIの対象業種に該当するかを確認し、専門家の支援を受けながら申請プロセスを進めるのが効果的です。

BOI(タイ投資委員会)とは?

BOI(タイ投資委員会)とは?

BOIは、外国企業や国内投資家のタイ進出を促進するために設立された政府機関です。タイ経済の発展と産業構造の高度化を目的として、税制優遇や規制緩和などのインセンティブを通じ、外国資本の受け入れを支援しています。

BOIの認可を受けることで、外国人でも一部の外資規制を免除され、自由な事業展開が可能になります。また、特定の産業(ハイテク、EV関連、IT、農産加工など)を重点支援分野として指定し、投資環境の整備を進めています。タイでの持続的なビジネス展開を目指す企業にとって、BOIは最も重要な支援機関の一つといえます。

  • BOIから受けられる主なメリット
  • 投資奨励を受けるための条件
  • BOI申請の基本的な流れ

BOIから受けられる主なメリット

BOI認可を受けた企業には、タイ政府から多くの優遇措置が提供されます。まず、法人税の免除または減免(最長8年間)が挙げられ、輸出産業や研究開発分野ではさらに延長される場合もあります。

また、設備・原材料の輸入関税が免除され、外国人専門技術者のビザや労働許可の取得がスムーズになる点も大きなメリットです。さらに、BOI認可企業は外国人による土地所有や外貨送金に関する制限の緩和も受けられることがあります。

これにより、外国資本でも柔軟な経営体制を構築できるのです。タイ政府は、BOIを通じて外資系企業の技術移転や現地雇用促進を図っており、企業側にとっても中長期的な成長を支える有力な制度となっています。

投資奨励を受けるための条件

BOIの投資奨励を受けるためには、申請企業が一定の条件を満たす必要があります。まず、事業がBOIの指定する対象分野に該当していることが前提です。

さらに、タイ国内における雇用創出、技術移転、地域経済への貢献など、社会的な効果が評価されます。加えて、環境基準の遵守や、外国人労働者とタイ人雇用のバランスも審査対象です。これらの基準を満たすことが確認されると、BOIからの認可を得て、税制優遇や規制緩和の特典を受けられます。

なお、申請書類の内容や事業計画の信頼性が審査の重要なポイントとなるため、申請前に専門家のサポートを受けることが望ましいです。

BOI申請の基本的な流れ

BOI申請のプロセスは、事前準備から認可まで複数のステップを経て進められます。まず、企業は事業計画を策定し、対象分野や投資内容がBOIの支援方針に適合しているかを確認します。次に、BOIに対して投資申請書を提出し、必要な書類を添付します。

申請後、BOIによる審査が行われ、必要に応じてプレゼンテーションや追加資料の提出を求められることもあります。審査期間は通常2〜3か月程度で、認可されれば正式なBOI証明書が発行されます。その後、企業は証明書を基に事業登録や税務申請を行い、優遇措置の適用を開始します。

全体を通じて専門知識が必要となるため、現地の行政書士や投資コンサルタントの支援を受けることが一般的です。

外資規制に関する注意点・ポイント

外資規制に関する注意点・ポイント

タイでの事業展開を検討する際、外資規制を理解するだけでなく、その運用や手続き面における実務的な注意点を押さえておくことが不可欠です。外国人事業法やBOI制度などの法令は頻繁に改正される傾向があり、誤った情報に基づいて進めると許認可が下りない、または罰則の対象となるリスクもあります。

さらに、申請プロセスは複雑で時間を要するため、適切な専門家やパートナーの支援を受けながら、最新情報を反映した形で進めることが成功への鍵です。以下では、実務上特に注意すべき3つのポイントを解説します。

  • 信頼できる専門家・パートナーを見つける
  • 法規制の変更等の最新の情報を常に確認する
  • 許認可取得のプロセスは複雑で時間がかかることを想定する

信頼できる専門家・パートナーを見つける

タイでの外資関連手続きは、日本とは制度・文化ともに大きく異なるため、現地の専門家やパートナーの存在が欠かせません。法律事務所や会計事務所、投資コンサルタントなど、FBL・BOI申請に精通した専門家を選ぶことが重要です。

現地の行政機関との交渉や書類作成においては、タイ語でのやり取りや細かい法解釈が求められることが多く、専門家のサポートがあることでスムーズに進行できます。

また、過去の案件実績や、日系企業との取引経験が豊富なパートナーを選定すると、文化的なミスコミュニケーションや誤解も防ぎやすくなります。信頼できる現地専門家を早期に見つけ、長期的な関係を築くことが、タイ進出を成功させる大きな要因となるでしょう。

法規制の変更等の最新の情報を常に確認する

タイでは、外資関連の法律や規制が頻繁に見直されており、BOIの対象業種や優遇内容は経済政策に合わせて柔軟に改定されます。こうした変更に対応できないと、認可手続きが無効になったり、税制優遇の適用を受けられなかったりするリスクがあります。

そのため、JETROやタイ商務省、BOI公式サイトなど、信頼性の高い一次情報源から最新情報を定期的に確認することが重要です。また、現地の法務・会計パートナーを通じて、改正予定や運用上の変化を早期にキャッチする体制を構築することも有効です。

近年は、デジタル経済や再生可能エネルギー分野の規制が活発に動いており、動向を把握することが事業計画の精度を高める鍵となります。

許認可取得のプロセスは複雑で時間がかかることを想定する

タイでの外資関連手続きは、申請書類の量や審査工程の多さから、想定以上に時間がかかるケースが多く見られます。特に、FBLやBOI認可の取得には、事業内容の適格性審査や現地調査、追加資料の要求などが発生しやすく、通常でも数か月〜半年ほど要します。

申請後に補足資料や説明を求められる場合もあるため、十分な余裕を持ったスケジュール設計が欠かせません。また、担当官によって運用解釈が異なることもあるため、事前に必要書類や想定質問を整理しておくとスムーズです。

計画段階から、法務・行政手続きに関わる時間的リスクを織り込み、専門家と連携して段階的に対応していくことが、トラブル回避と成功の近道です。

タイの外資規制対応や会社設立サポートならAXIA Marketing

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タイは東南アジアでも有数の経済拠点として、多くの外国企業が注目する市場ですが、外資規制の複雑さから慎重な準備が不可欠です。外国人事業法(FBA)やBOI制度を正しく理解し、信頼できる現地パートナーと連携することで、リスクを最小限に抑えた進出が可能になります。

AXIA Marketingでは、タイをはじめとしたASEAN諸国への進出支援や市場調査、現地法人設立のコンサルティングを専門的にサポートしています。最新の法規制や投資制度を踏まえた最適な戦略立案で、貴社の海外展開を成功へ導きます。

参考文献

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