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2025.10.18
記事の監修者
金田大樹
AXIA Marketing代表取締役
リサーチ会社を活用した経営判断を、日本企業の常識にしていくことがモットー。
鉄鋼専門商社や株式会社ネオキャリアのフィリピン現地法人での勤務を経て、リサーチ事業にて起業。中堅から大手調査会社やコンサルティング会社のリサーチのプロジェクト管理を行った。その後、AXIA Marketing(アクシアマーケティング)株式会社を設立し、代表取締役に就任。上場企業をはじめ、多くの企業の成長を「価値ある情報提供力」でサポートしている。
新しい事業を始めるときや既存事業の成長戦略を考える時、「その市場にどれほどの規模や成長余地があるのか」を把握することは欠かせません。市場規模調査は需要の大きさや競合状況を数値化し、参入の可否や投資判断に役立つ重要なプロセスです。
しかし、統計やデータの扱いに慣れていないと「どこから情報を集めればいいのか」「どうやって規模を算出すればよいのか」と悩む方も多いでしょう。本記事では、市場規模調査の基本から具体的な調べ方、既存データがない場合の算出方法までをわかりやすく解説します。

市場規模調査とは、ある製品やサービスが属する市場においてどれだけの需要が存在するかを定量的に把握するための調査です。簡単にいえば、その市場にどれほどのお金や顧客が集まっているのかを数値で示す取り組みと言えます。市場規模を正しく把握すると、企業は既存事業の成長性を評価したり、新規事業に参入すべきかどうかの判断材料を得られます。
例えば、需要が拡大傾向にある市場であれば積極的に投資を行い、逆に縮小している市場であれば撤退や方向転換を検討するなど、戦略的な意思決定に直結するのです。また、市場規模調査は投資家や金融機関に対して事業の将来性を示す説得力ある根拠ともなります。
市場規模調査は単なる数字の把握にとどまらず、事業戦略やマーケティング施策を組み立てる上での重要な出発点なのです。

市場規模を正しく把握するためには、単に売上総額や顧客数を確認するだけでは不十分です。市場全体の大きさと、自社が実際に狙える領域を段階的に切り分けて理解する必要があります。
ここでは、市場規模を構成する3つの要素について解説します。
TAMは、理論的に獲得可能な最大の市場規模を意味します。特定の制約を設けず、その製品やサービスが対象となり得るすべての顧客を含んだ市場の大きさを示します。例えば、化粧品市場を対象とした場合、スキンケア、メイク、ヘアケアなどを含む全世界の化粧品需要がTAMに該当します。
TAMは実際にすべての市場を取り込めるわけではありませんが、自社のビジネスがどれだけの可能性を秘めているかを示す指標として重要です。特に投資家への説明や長期的な成長戦略を描く際に用いられ、どのくらい大きな市場で勝負しているのかを示す客観的な数値として活用されます。
TAMには、自社の直接的な競合でなくとも同じ市場を分かつ商品・サービスなども含まれます。
SAMは、自社の製品やサービスが実際にアプローチ可能な市場規模を指します。TAMのうち、自社の強みや対象顧客、事業領域に合致する部分だけを切り出したものといえます。例えば、世界全体の化粧品市場をTAMとした場合、日本国内や東南アジアなど自社が実際に展開可能な地域をSAMと定義できます。
SAMを明確にすることで、事業戦略における優先市場を特定でき、どの地域や顧客層に資源を集中させるべきかを判断可能です。また、SAMは売上予測や中期経営計画の基盤となるため、現実的な視点で市場機会を捉えるうえで欠かせません。
SOMは、現実的に獲得可能な市場規模を示します。SAMの中でも、自社の販売力や競合状況、ブランド認知度などを考慮したうえで、実際に取り込めると見込まれる部分だけを算出します。
例えば、自社が参入する化粧品市場において、流通チャネルや広告予算の制約を踏まえた場合、全体の10%程度がSOMとして現実的なターゲットになることも。SOMを算出することで、売上目標の妥当性や投資の回収可能性を具体的に検証でき、事業計画の実効性を高めることが可能です。
売上高やGMVなどを表しており、PMやPenetrated Marketなどと呼ばれることもあります。企業が日々のマーケティング施策や販売戦略を策定するうえで、最も実務的に活用される指標といえるでしょう。

市場規模調査は、単に数字を把握するための作業ではなく、企業が中長期的な成長を実現するために欠かせない基盤です。既存事業であれば市場の成長性や縮小傾向を見極め、将来的な投資や戦略の方向性を判断する材料になります。
また、新規事業を立ち上げる際には、実際に参入すべきかどうかを決めるための客観的な根拠となり、経営判断の精度を高めます。感覚や勘に頼らず、データに基づいた戦略を描くためには、市場規模調査が不可欠といえるのです。ここでは、市場規模調査が重要である2つの理由を解説します。
市場規模調査は、既存事業の今と未来を把握するうえで極めて重要です。市場が拡大傾向にあるのか、それとも縮小に向かっているのかを明確にすることで、事業継続の是非や投資配分の判断が可能になります。
例えば、成長市場であれば新規店舗の出店や広告投資を強化する根拠となり、縮小市場であれば新規事業へのシフトや効率化を検討するきっかけとなります。また、市場規模の推移は競合他社の動向を予測する材料にもなり、自社の立ち位置をより明確に理解できるようにもなるでしょう。
特に既存事業が安定していると感じているときほど、市場規模の変化を定期的に調べることで、見落としていたリスクや新しい成長機会を早期に発見できます。
新規事業に参入する際、市場規模調査は最も重要な判断材料の一つとなります。市場が十分に大きく、成長性が見込める場合には投資リスクが軽減され、逆に市場が小さすぎる場合には大きなリターンを得られない可能性が高まります。
例えば、近年注目されるDXやヘルスケア市場に参入を検討する場合、対象顧客の数や市場成長率を把握することで事業の実現性をより正確に評価できます。
また、市場規模調査は投資家や経営陣に対して説得力を持つ説明資料にもなり、資金調達や社内承認を得やすくする効果もあるのです。勘や直感だけで新規事業に挑戦するのではなく、データに基づいた根拠を持つことで、より堅実で成功確率の高い意思決定を行えます。

市場規模を正しく把握するためには、信頼できるデータをどこから入手するかが重要です。政府や官公庁が発表する統計データや業界団体の調査レポート、民間調査会社やシンクタンクの分析など、多様な情報源を活用することで精度の高い調査が可能になります。
ここでは、代表的な市場規模の調べ方を5つ紹介します。
市場規模を調べる際、最も信頼性が高い情報源の一つが政府や官公庁が提供する統計データです。これらのデータは調査方法が明確で、国全体を対象とした網羅性の高さやデータの正確性が担保されている点が強みです。
例えば、人口統計や家計調査、産業別の出荷額や市場規模など、事業の基盤となる情報を幅広く入手できます。こうしたデータを活用することで、特定の市場だけでなく周辺市場や消費動向の変化も把握でき、中長期的な市場予測に役立つでしょう。特に新規事業を検討する際には、民間調査よりも先に政府データを確認することで、基礎となる市場規模を客観的に把握することが推奨されます。
e-Statは、日本の政府統計を一元的に提供する公式サイトで、総務省統計局が運営しています。人口、労働、消費、産業、貿易など、幅広い分野のデータを無料で閲覧・ダウンロードできるため、市場規模調査の出発点として非常に有効です。
特に、地域別の統計や長期的な推移をグラフ化できる機能があり、自社が参入を検討している地域や産業の市場動向を定量的に把握できます。さらに、ExcelやCSV形式でデータを入手できるため、独自の分析や推計を行いやすいのも魅力です。市場規模調査を行う際には、まずe-Statを活用し、信頼性の高い基礎データを収集することが効率的です。
各省庁が毎年発表している白書や調査報告書も、市場規模調査に有効な情報源です。例えば、経済産業省のものづくり白書や総務省の情報通信白書、観光庁の観光白書などは、それぞれの業界における最新の動向や統計データを詳しくまとめています。
これらは単なる数値だけでなく、政策動向や課題、今後の展望なども解説しているため、業界の背景や成長要因を理解するのに役立ちます。また、民間調査では得られない分野横断的な情報も含まれているため、関連市場の把握にもつながるでしょう。
特定の業界に焦点を当てた市場規模を調べたい場合には、各省庁の白書を積極的に参照すると良いでしょう。
業界団体が発表する統計データや調査レポートは、特定の産業や市場に特化した情報を得るのに有効です。例えば、日本化粧品工業連合会や日本自動車工業会など、各業界の団体が会員企業の出荷額、販売数、輸出入動向などを集計して公表しています。
こうしたデータは業界の現状をリアルに反映しており、市場規模を把握するうえで信頼性が高いといえます。また、団体によっては会員限定の詳細レポートや将来予測を公開している場合もあり、加入することでさらに深い分析が可能です。
政府統計と併せて活用すれば、マクロ視点と業界特化のミクロ視点をバランスよく取り入れられ、自社の事業戦略に役立つでしょう。
民間の調査会社が提供する市場レポートは、最新の市場規模データや成長予測を効率的に把握できる点で非常に有用です。富士経済、矢野経済研究所、IDC、Gartnerなどの主要リサーチ企業は、業界別・テーマ別に詳細な市場分析や競合動向、今後のトレンド予測を定期的に公開しています。これらは有料資料が中心ですが、専門家による取材・アンケート・独自推計モデルを用いており、信頼性と実用性が高いのが特徴です。
AXIA Marketingでも、こうした民間調査レポートを活用しながら、独自のデータ分析やヒアリング調査を組み合わせて企業の海外展開支援を行っています。特に、特定国・業界の市場規模を迅速に把握したい企業に対しては、無料統計で基礎情報を整理しつつ、重点分野はレポートを活用した精密な市場分析を提案しています。費用対効果を意識した調査体制により、最短で戦略立案に活かせる実践的なデータ提供が可能です。
シンクタンクや金融機関が発表するレポートは、政策や経済動向と結びつけて市場規模を把握できるのが特徴です。例えば、野村総合研究所(NRI)や三菱UFJリサーチ&コンサルティング、日本総合研究所などのシンクタンクは、業界別の市場規模や今後の成長可能性を詳細に分析した資料を公開しています。
また、大手銀行や証券会社も、投資家向けに産業レポートを提供しており、資金調達やM&Aを検討する企業にとって重要な判断材料になるでしょう。こうしたレポートは、統計データだけでなく経済政策や国際情勢の影響も考慮して分析されているため、長期的な市場予測に強みがあります。
公的データや業界団体の統計と併用することで、現状だけでなく将来の市場規模を多面的に把握できる点が魅力です。
新聞やニュースサイトも、市場規模を把握するうえで欠かせない情報源です。特に日本経済新聞や日刊工業新聞、業界特化型のオンラインメディアなどは、新しい市場動向や企業の売上データ、調査結果をいち早く報じます。
これらの記事からは、政府や調査会社が正式な統計を発表する前に、市場の変化をキャッチできる場合があります。また、企業の決算発表や新商品の売上予測、提携やM&Aに関する報道も、市場規模を推定する際の参考になるでしょう。
さらに、海外ニュースサイトを利用すれば、現地市場の動向や消費者行動の変化を直接把握でき、グローバルな視点での分析が可能です。ただし、速報性が高い一方でデータの裏付けが不十分な場合もあるため、必ず他の信頼性の高い情報源と照らし合わせながら利用することが重要です。

市場規模を調べる際、政府や業界団体、民間調査会社から十分な統計データが得られるとは限りません。特に新興市場やニッチな分野では公開情報がほとんど存在しないケースもあります。その場合でも、独自に市場規模を推定する手法を使えば、一定の目安を得ることが可能です。
代表的な方法が、フェルミ推定と類似市場のデータからの類推です。前者は論理的な分解と仮定を用いて数値を導き出す方法、後者は近しい市場のデータを活用して相関関係から推計する方法です。ここでは、既存データがない場合の市場規模の2つの算出方法について詳しく解説します。
フェルミ推定とは、限られた情報しかない状況で大まかな市場規模を算出するための論理的手法です。市場を構成する要素を細かく分解し、それぞれに合理的な仮定を置いて計算を進めます。
例えば、東京都内で1年間に販売されるコーヒーの市場規模を推定する場合、
といった要素に分けて掛け合わせます。一つひとつの前提は仮定値でも、分解して積み上げることでおおよその市場規模を推定できます。
フェルミ推定は正確な数値を出すのではなく規模感を掴むことが目的であり、特に新規事業の初期段階や企画の妥当性を検討する際に有効です。また、複数の仮定シナリオを比較することで、最小値・最大値といった幅を持った予測を立てられる点も強みです。
既存データが存在しない場合、近しい業界や地域の市場データを参考にする類推も有効です。例えば、新しい健康食品の市場規模を知りたいときに、同じターゲット層に人気の別ジャンル(プロテインやサプリメントなど)の市場規模を参考にし、購買頻度や単価の違いを補正して推定します。
また、ある国でのデータが存在しない場合には、人口構成や所得水準が類似する別の国の市場データを基に算出することも可能です。例えば、ベトナムにおけるオンライン英会話市場規模を推定する際、日本やフィリピンの市場規模を参考にし、インターネット普及率や平均所得を補正して推計する方法があります。
類似市場を用いた推定は、ゼロから推論するフェルミ推定に比べ精度が高まりやすいのが利点です。ただし、市場特性が異なる部分を正しく補正しなければ誤差が大きくなるため、複数の比較対象を検討し慎重に補正を行うことが重要です。

市場規模調査は事業戦略の根幹を支える重要なプロセスですが、誤ったデータや偏った情報に基づいてしまうと判断を誤り、事業計画の失敗に直結するリスクがあります。特に市場規模は将来性や投資判断に直結するため、調査方法やデータの取り扱いには細心の注意が必要です。
ここでは市場規模を調査する際に意識すべき3つの注意点を解説します。
市場規模を調査する際は、1つのデータや報告書だけに依存するのは危険です。情報源によって調査対象範囲や定義が異なるため、同じ市場を扱っていても数値が大きく乖離するケースが少なくありません。
例えば、ある調査会社は国内全体の販売金額を市場規模として算出している一方で、別の調査会社はECチャネルに限定して数値を出していることがあります。こうした差異を理解せずに活用すると誤った結論につながります。
そのため、政府統計や業界団体の公式データ、複数の民間調査会社のレポート、ニュース記事など幅広く比較し、数値の傾向や共通点を見極めてください。複数の情報源を突き合わせることで、データの偏りを排除し、より現実に近い市場規模を把握できます。
市場データを利用する際には、その情報が「誰によって」「いつ」発表されたものかを確認する必要があります。古いデータをそのまま利用すると、市場の成長や変化を反映できず、実態に合わない分析となるリスクがあります。
特に急成長している業界では、2〜3年前の数値が現在の状況とかけ離れていることは珍しくありません。また、情報発信者の利害関係にも注意が必要です。調査会社やシンクタンクのデータであれば信頼性は比較的高いものの、広告や販促の一環で提示されている市場規模データは誇張されている可能性もあります。
そのため、必ず発表主体の信頼性や調査手法を確認し、最新かつ客観的なデータを優先的に活用することが大切です。
市場規模を調査する際に見落とされがちなのが、市場の定義を明確にすることです。市場定義が曖昧だと、異なる調査結果を比較しても整合性が取れず、正しい結論を導けません。
例えば、飲料市場といってもアルコールを含むかどうか、業務用と家庭用を区別するかどうかで数値は大きく変わります。また、対象を国内市場に限定するのか、海外も含めるのかによっても市場規模は全く異なります。
そのため、調査を行う前に「対象とする商品カテゴリー」「対象地域」「対象顧客層」などを明確に定義しておきましょう。定義を明示しておくことで、調査結果を他のデータと比較しやすくなり、組織内での意思決定にも一貫性を持たせられます。
市場規模調査は、自社だけで正確に実施しようとすると膨大な時間と専門的な知識が必要になります。特に新規市場の参入判断や成長戦略の立案では、信頼できるデータをもとにした分析が欠かせません。
AXIA Marketingでは、官公庁統計や業界団体のデータ、民間レポートなど多角的な情報を組み合わせ、お客様の事業に即した精度の高い市場規模調査を提供しています。経験豊富なアナリストが課題に合わせて調査を設計し、戦略立案に直結するレポートを作成するため、安心して事業の意思決定に活かせます。
効率的かつ的確な市場調査を行いたい方は、ぜひAXIA Marketingにご相談ください。
参考文献
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